集まる動物たち

s286

第0話

 年二回のお楽しみ。上野動物振興会が主催する文学賞の選考会せんこうかい徒町おかちまち老舗料亭しにせりょうてい尾喜楽おきらく」で開かれていた。

 居並ぶ重鎮じゅうちんは、いずれもテレビや新聞などで誰でも顔を見たことはあるだろう。

『どうしたもんかね』

「いやぁ、それをあなたが言いますか」

[まぁまぁ、百年も前から続く由緒ある純文学賞ですから。 揉めるのはわかりますがぁ……我々が、この権威を守らなくしてどうしますか]

 重鎮たちがまた黙り込む。末席の若手、コウモリが能天気のうてんきを装って発言した。

【いゃあ、もう一作にまで絞られたじゃありませんか今年の前期、賞を出すか出さないかでそんなに揉めなくても】

 沈黙が続く。

【なんちゃってキキッ】

[まぁまぁ、君の言葉もわかる。しかし、由緒ある純文学賞ですからねぇ]

『彼の提案も選択肢の一つではあるな。つまり賞を出すか出さないかとてもシンプルな話ではある』

「ですな。でもこの作品を一番しているのは先生ですよ?」

『まぁ、そうだ。私はこの作品が文学界に新風を吹き込むと思っているからね。是が非でも賞をとらせたい』

 配られた作品のコピーをめくってベテランの一人が呟いた。

[新しいと言うか、破天荒はてんこうすぎやしませんか? これじゃ、SFというか子供向けのライトノベルのようだよ]

『……むむっ』

「三部構成でそれぞれに主人公が三人。一章は、売れない作家が死後に未練から別の作家に乗り移る二章は、乗り移られた作家が日記に記した私小説の軽い読み物。そして三章が作者自身が書いたと思われる自小説じしょうせつ。ちなみに作者はプロフィールに同人作家としか書いていない」

[僕はソコがどうもわからないんだぁ。だって第三章はよく言えば絵本。悪く言ったら雑文交じりの落書きで文学と言えるかどうか……]

 本来、私小説とは本当のことがメインの一人称小説であってこんなスタイルが許されるはずもない。まして漫画が文学ななるのか? と。


先生方、お食事の用意が整いました。

 

 賞を主催する編集者の代表が畳に突っ伏すようにそう言った。

『まぁ、時間はある』

然りしかり

[まぁ、休憩ですねぇ]

 その時、コウモリが【キキッ】と笑った。


※ 自小説については検索してください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

集まる動物たち s286 @s286

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る