放送室でリンクする時⑫




そして、指定された日曜日がやってくる。


―――今週の日曜日に校庭で、って今日で合っているよね・・・?


千恵は制服に着替えるか私服に着替えるか迷い、なるべくお気に入りの私服を選ぶことにした。


「今から学校へ行くの? 休みなのに?」

「うん。 ちょっと友達と約束があって」


不思議がる母に適当に理由を言った。 会う相手や状況的に、これ以上追及されては困るため急いで家を出る。


「行ってきます!」


―――緊張するなぁ・・・。

―――今日は本物の燐久先生と会える日で、合っているんだよね?


学校で先生としてやっていたのは燐久の姿をしたロボットであったという。 ロボットとのやり取りがどれだけ伝わっているのか分からないが、千恵はずっと接してきた燐久の姿を思い浮かべていた。 

ただ思えば、未来から生身の人間を送れないということでロボットが送られてきたのだ。 それがこの短期間で変わるとは到底思えない。


―――・・・もしかして、私が何か勘違いしてる?

―――今の時代の燐久先生が来てくれるのかな?

―――時系列がよく分からない・・・。

―――瑛士くんが私と同い年だから、私より年下っていうことになるよね?


どんな姿なのか色々と想像しつつ校庭へ向かった。 すると既に一人の小さな姿があった。


―――もしかして燐久先生?

―――思ったよりも身体が小さい。


見た目は中学生くらいだった。 ゆっくりと近付くと少年は気付いたのか振り返る。


「あ・・・」


互いの目が合った。 彼の目は赤く腫れていた。


―――・・・そっか。

―――お兄さんを亡くしたばかりなんだもんね。


しばらく見つめ合いながら沈黙していた。 まだ燐久本人なのかも分かっていない。


―――・・・どうしよう。

―――何て声をかけよう。

―――私のことは分かるのかな?

―――でも初対面だよね?

―――年上の私から話を切り出したいけど、何を言えばいいのか・・・。


当然面識はなく好きだった燐久の面影が少しあるだけだった。 年齢を考えてみれば燐久先生は少なくとも10年以上先の未来からやってきていたはず。 

成長の過程で育まれる性格があるのなら、もしかすると自分の知る燐久とはまるで別人ということも有り得るのだ。


「えっと、あの・・・」 


声を出してはみるものの上手く言葉が出てこない。 困っていると少年が先に口を開いた。


「兄さんは大好きだった貴女を守れて本望だったと思います」

「ッ・・・!」


その発言に一瞬言葉に詰まった。


―――やっぱり、燐久先生本人なんだ。


「・・・私のことが分かるの?」


尋ねると彼は自身なさ気に頷いた。


「分かります。 ・・・何となくですけど」


千恵は目の前の彼が成長した燐久先生が好きだった。 目の前の彼ではない。 しかし、同一人物であると思うだけで少しずつ親近感が湧いてくる。


―――私は燐久先生のことが好き。

―――でもこの子にとっては、私は初対面なわけで・・・。

―――どう接したらいいのかな・・・?


彼は自分のことをどう思っているのかが分からない。 当然恋愛感情は抱いていないだろう。


―――いや元々、燐久先生と両想いだったわけではないか・・・。


そんな複雑な感情を抱いていると彼はポツリと呟いた。


「兄さんが命を懸けてでも守ろうとした貴女のこと、僕も心の底から大切な存在なんだと思っています」

「・・・え?」


まるで千恵の心をフォローするかのような発言。 その言葉に胸がドクンと跳ねた。


―――・・・やっぱり燐久先生は優しいままだ。

―――大人になってもそれは変わらない。


「・・・ありがとう」


礼を言うと少年は優しく笑う。


「あ、ちなみに私の名前は」

「僕の名前は理久。 未来もよろしくお願いします、千恵さん」


遮るように言われた言葉。 名前を知っていてくれたことに嬉しく思い笑顔で頷いた。


「・・・うんッ!」


後にロボットの先生は壊れた状態で理久に発見されることになる。 それにより科学の大幅な進歩を遂げ、理久は過去にロボットを送ることができたのだ。


―――あれ?

―――でもそれだと、最初にタイムスリップを発明した燐久先生は・・・。


「まッ、いっか!」


未来で過去に燐久ロボットを送る日、成長した燐久は千恵と共に笑顔で送り出すことになる。 二人の薬指には小さな光が煌めいていた。






                                 -END-



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放送室でリンクする時 ゆーり。 @koigokoro

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