放送室でリンクする時⑪




悲惨な事故が起きたため生徒は強制的に部活や委員会を中止し帰宅となった。 その中で放送委員会のメンバーは警察に事情を話すことになった。 

どうやら入れ替わったということを知っているのは千恵と燐久、そして今は亡き瑛士だけらしい。 そうなれば結局事故ということになり、事件性は否定された。


「千恵さんは帰らないの?」

「・・・私はまだ帰りたくありません」


事情聴取が終わって放送委員会のメンバーも帰り出しても千恵だけは教室に残っていた。 今教室には千恵と燐久以外に人はおらず二人きり。


「燐久先生は、職員室へ行かなくていいんですか?」

「・・・そうだね。 まだここに残りたいかな」 


二人は千恵の教室で燐久は瑛士の席をジッと見つめていた。 燐久はどう思っているのだろうか。 未来から過去を帰るためにやってきて、そして失敗した。


「・・・燐久先生はこれからどうするんですか?」


燐久は少し考えた後遠い目をしながら言った。


「僕はここを去ることにするよ」

「去る・・・?」

「うん。 もうここにいる必要がなくなったからね」

「・・・」


目の前にいるのは人間に見えるが、過去を変えるためにやってきたロボットなのだ。 その役目が失われてしまえば存在価値はないということなのだろう。


「生徒を守り切れなかったから退職をする。 理由がちゃんとあるから、変には思われないだろう」


―――確かに、そうかもしれないけど・・・。

―――燐久先生がいなくなるのはやっぱり寂しい。


例え燐久がロボットだとしても千恵の気持ちは変わらない。 いや、正確に言えば未来に生きる燐久のことを気にかけている。


―――私の気持ちを伝えるなら今しかない。

―――もう燐久先生は、ここからいなくなっちゃうんだから。


「ねぇ、燐久先生」

「何だい?」

「私は先生のことが好きです」

「・・・」


燐久は千恵に好かれているということを既に知っている。 だから驚くようなことはなかった。


「・・・うん。 僕を好きになってくれてありがとう」

「燐久先生に会いにいっては駄目ですか? 本物の燐久先生は今どこにいるんですか?」

「・・・」


燐久は何も答えなかった。


「燐久先生はここを去ると言っていました。 これからどこへ行くんですか?」

「これからは誰にも見つからないところへ行く予定だよ」


まるで自分を避けているように思えた。


「どうしてそんなところへ・・・」

「本当は僕が壊れるはずの予定だったんだ。 だけどそれがなくなり、タイムスリップをして戻る手段も失った。 こんなロボットがこの時代にいてはいけないんだ」

「そんな・・・」

「・・・ごめんね、千恵さん。 こんな僕に協力してくれてありがとう」


燐久は千恵の頭を撫でると静かに教室を出ていった。


「燐久先生!」


呼び止めるも燐久は止まることがなかった。 一人だけの教室。 それはとても虚しく自然と涙が溢れてくる。


―――嫌・・・。

―――燐久先生、嫌だよ。

―――瑛士くんも亡くなって、燐久先生もいなくなるなんて嫌!


心が悲鳴を上げていて、千恵はいつの間にか燐久の姿を必死に探していた。


―――燐久先生に想いを告げることはできた。

―――でも、この別れ方はやっぱり悲し過ぎるよ!


だが校内を走り回っても見つからない。


「燐久先生! 燐久先生、どこ!? もう行っちゃったの!?」 


静まり返る校舎に千恵の声だけが響いていた。


「燐久先生お願い! もう一度私に姿を見せて! 燐久先生! お願いだから・・・ッ!」


諦めかけたその時だった


『今週の日曜日。 校庭で』 


「・・・え?」


放送用のスピーカーから燐久の声で確かにそう聞こえたのだ。


「燐久先生・・・?」


―――今週の日曜日に、校庭で・・・。

―――今のは放送だった。

―――もしかして、それって・・・!?


その燐久ロボットの言葉が千恵と本物の燐久に送った最後の贈り物だった。 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る