1章 ハナズオウと蠟燭
第7話 夜は君とゲームを眺めて 〈ジュダ〉
─新暦65年─
No
倒壊したビル群を疾走する一台のジープ。
荷台付きの愛車は排気ガスを吹き上げ、
ゴムタイヤに踏まれたガラス片が瞬き
「うおぉ、見て見てジュダ。こいつぁ中々に綺麗ですぞ。」
「運転中だから見られない、それに危ないから窓から乗り出すのはやめてよね。」
はぁい。と言って
バックミラーを確認する。荷台に
コウロギ共の臓物は人間との互換性が無いので、冷蔵庫の肉は食用だ。
虫の肉は少々気が引けるが、魚の培養肉が使われていてサーモンの味がする。
ヴェヒターの掲げる「環境保全」には非選民達も少なからず賛同していて、 《ヨハネ条》第26条により、養殖と特別に許可された動植物か
「しっかし、食えるって分かっててもコウロギ肉は
覗き窓から荷台を見るニホカ。
「使える物は使わないと。それにあんた、先週買ったお寿司にあのコウロギ入ってたじゃん。覚えてない?ニホカが気に入ってたサーモンの。」
「え、マジですか……」
「マジよ。」
他愛ない会話をしつつ、道路標識のない荒野を律儀に法定速度で運転していると、
自然災害や
─────────────────────
華極共同体 都市
「ジュダお疲れ様。運転ありがとね。ポンペイもお疲れ。」
ニホカが私と愛車を
ポンペイは、彼女が車に付けた名だ。
私達専用ガレージから、エレベーターで自宅まで上がる途中で、私も親友へ労いの言葉をかける。
「ニホカも十分頑張ってくれたよ。ていうか、君がいなければ今日はヤバかった。」
「褒めてくれてありがとね。確かにアーツなしでコウロギ3体はヤバかったと思うな。
……だからさジュダ、何度も言ってるけど、カラードじゃない貴方は任務に出なくていいんだよ?
別にお荷物とか言いたいんじゃなく」
「私は平気だよ。それに、私もニホカの役に立ちたいんだ。」
心配してくれる親友を半ば強引に制す。
カラードは16歳になると都市の軍部から、
今日コウロギ駆除をしたのもその仕事の一環だ。
だが、カラードは最近の技術なので最高年齢も28歳と低く、大抵未成年で構成され人口も少ない。
だから一般の志願者公募もしていて、私もその一人として志願した。
定員オーバーになりそうな重苦しい空気の中、エレベーターは上昇を続けている。
─────────────────────
高層ビルの22階、中庭付きのベランダから見る夜景。
乱立する広告看板の群れが
その隙間から私を撫でる、涼やかな風が気持ち良い。
「ジュダ〜。 お風呂開いたよ。」
ガシガシと、濡れた髪をタオルで乾かすニホカ。
ふぃ〜と溜息を吐く彼女は、冷蔵庫に直行し、帰り際に買ったケーキを取り出す。
「分かった、今入るよ。……私の分、ちゃんと残してね。」
「えへへ、リョーカイしました……」
デザート泥棒に釘を刺してから風呂に入る。
40℃に調節したシャワーは、外のそよ風とは違った気持ちよさがあるが、風呂場の鏡に写る傷だらけの少女が、気分を損ねる。
「大分小さくなったけど、この傷跡治りそうにないかな……」
年相応に成長した艶やかな少女の肩には、白く変色した切り傷の跡。
彼女が、この街に来るまでに出来た物だ。
「自分の無計画が祟ったけど、ここまで大きいと水着の時見えちゃう。」
当面着る機会の無い水着の事を考え気分が沈む。
彼女は元々、この街の者ではない。
故郷から逃げ出し、廃ビルで死にかけの所を保護されて龍華の孤児院で生活していた。
同居人とはその時知り合ったのだが、二人は何かと気が合い、今は軍部に保証人となって貰い、二人暮しをしている。
ニホカが
ドライヤーである程度髪を乾かし、寝る時に暑いのが嫌なので、下着に着古したオーバーTシャツという最低限の格好で脱衣所を出る。
もう眠ていると思ったが、まだ濡れ髪の同居人は据え置きのゲーム機に没頭していた。
「もしもし、川崎ニホカさん? 明日は学校ではなくって?」
朝方に彼女を起こすのは骨が折れるので、多少嫌味を含め寝ろと催促する。
従事義務はあるが、それ以前に私達は一人の
「明日学校なら尚更やらねばでしょ。
ここはどーぞ、偉大なるジュダ・シュピラー様、我に御慈悲を〜。」
「全く……。 じゃ12時までには寝てよね。」
「おお、神が与え
「寛大なる我が
茶番くさい台詞回しに乗ろうとするが、気恥ずかしくなった。
正直、私も気になっていたゲームだったので、ちゃんと残してあるケーキを食べながら鑑賞することにした。
夜は大抵、こうやって彼女が遊ぶのを眺めて過ごす。
私はゲームクソ雑魚なので、二人用以外にゲームは参加しないけど。
彼女が楽しそうに遊んでいるのを見てると、心が軽くなる。
私にはそれだけで十分なのだ。
今日もそうやって、寝るまでの間は雑談をしながら、彼女のゲームを眺めて過ごした。
ギュスターヴの大地 赭梅/Shame @LondonABC
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