第6話 窮屈な鳥籠 〈オゾン〉
─西暦2103年─
No
アメリカ イリノイ州 シカゴ
ランチタイムを知らせるベルが校内で鳴り響き、眠りこけていた人類史の教師はさっさと立ち去る準備をし始めた。
後ろから肩を揺すられる。
「なあオゾン。あの
後席のイーランに返事を返す。
犬っぽくて愛嬌のある彼に話しかけられると、同性でもドキッとする可愛らしさがある。
「後ろに立たれたりしないからスマホイジれるけど、せめてテスト対策くらいは教えてほしいよねー。」
「それな。アハハハ んじゃオゾン、飯食いにこーぜ。」
何人かのメンバーとも合流し、カフェテリアを目指す。
その間はTic Tacで何がバズったとか、内輪ネタとか、男子高校生特有のくだらない会話で暇を潰す。
お喋りの途中、カフェテリアへの連絡通路に差し掛かった途端、うだる様に暑い外気が、僕らの着る粗いストライプでミント色のYシャツにじめじめと纏わりついてくる。
乾燥しきった陽光ならまだ幾分か心地良く感じられるが、プルメリアの咲く中庭には、たっぷりと湿度を含んだ空気で充満して、頭がじんじんとする。
「ハァー、もう乾季だってのに暑いわ〜。去年はクーラーかけねぇでも涼しかったよな?」
「気象予報だと32℃つってたな。やっぱ地球温暖化が原因かねー。」
できるならカフェテリアに駆け込んで、レモネードか何か飲みたいくらい暑いが、ぐっと堪え会話の輪に入る。
「んでも、そういうのって昔の方が酷かったんでしょ?
「ばーか、オゾン。ヴェヒター作ったのは、WMOの前身だったギュスターヴ製薬だろ、人類史の期末範囲だぞお前。」
「うぇ、マジ? あのハゲ先公、試験範囲雑に教えるから知らんかった。」
「おい教えるなよクリス。優等生さんの点数があがっちまうじゃねーか。」
うろ覚えの知識でバカを晒したが、他クラスからの有益な情報は有り難い。
オゾンは友人からの優等生いじりを卒なく受け流し、期末範囲の復習を脳内で始めた。
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オゾンは人類史と言う分野、特に近代史が苦手だ。
暗記が苦手とかいった理由では無く、ある種の嫌悪感が芽生えるからだ。
この世界は、気候変動により突如現れた
それ以来、人間は
その様な、何からもモラトリアムに守られた社会が、オゾンは堪らなく嫌いだった。
閉鎖的なコミュニティでは他者とのコミュニケーションが強要される。
気遣いのできる性格のオゾンは、物心付いたときから常に他人に合わせて生きてきた。
今まで続けてきた退屈な生活はきっとこれからも続く。
皆何処かしらで、他人と強調する事を学び、同じ街の小学校、中学校、高校、大学で、同じ様な教育を受け、同じ様な価値観を身に着ける。
社会にでてもきっと、変わり映えのない価値観を身に纏った人で飽和するオフィスで働き、自分も同族であると気遣いながら生きていくに違いない。
ならばいっそ街をでて、化け物にでも喰われてやりたいと思うが、冷静に考えて命は無駄にしてはならないし、痛いのもイヤだ。
精々僕に出来るのは、世界をこんな風にした旧世代人や、わざわざそれを知識として教えに来る人類史に嫌悪の意を示すぐらい。
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試験の復習から大分脱線してしまった。
意識を徐々に現実に戻す。
僕らはもうカフェテリアに着いて、カウンターの順番待ちをしている。
考え込んでいる間、運良く僕は会話の中心に選ばれなかった。
今はレンブルがイーランに、今日の飯代を奢るよう頼み込んでいる。
「なあお願いだよ、ランチ券忘れちゃったんだ。3
「無理だし。てかくれよって何だよ、責めて貸して下さいだろーが。」
「じゃ、貸して。」
「真に受けるバカがあるか、無理だよ。」
結局交渉は決裂し、レンブルは自腹をきる。が、端から借りる気は無かったのか、上機嫌で学食のメインディッシュにかぶり付く。
今日は鶏のローストとラザニアのどちらかが選べたので、僕もレンブルと同じローストにした。
取り留めのない会話が再開し、弾んでいく中で、この生活も悪くはないなと思えてくる。
そういった惰性の数々が、僕をこの生活に連れ戻す。
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