第5話 JK流ハンティング!!!

不意に、ニホカが金属製のロッドを持って立ち上がった。

持ち手が、ブレーキレバーに似た構造を施す1m弱のそれは、陽光に照らされ銀朱ぎんしゅの宝石細工を輝かせる。



「ジュダ、持ち場について構えて。奴らが来た。」

「嘘。それホント?」


呑気に朝食の最中だった私は、急な呼び掛けに間抜けな返事をしてしまった。


「ホント。前の出入り口からデカい機械生物ワイルドライフが3匹。大体4〜500m先からこっち来てる。」



普段はのほほんとしているニホカの表情がピリ付き一点を凝視ぎょうしする。

その眼は何人たりと見過ごしまいと、猛禽の様に見開きまばたかない。


私もライフルを持ち、まだ影すら見えぬ敵に身構えた。

彼女はアーツによって、遠くから敵を視認出来る。


「ジュダ。 もうすぐ来るよ!

右から来る機械生物を片付けて!」


ニホカがアーツ詠唱を始めた。

彼女の周辺や腕にはドス黒くあかい呪文字が浮かび、轟々とした炎が次々と現れる。



倉庫内に足を踏み入れ、我が物顔で彷徨うろつく機械生物は、まだこちらに気づかない。


鳥類の祖先を思わせるフォルムに、コウロギを模した生体構造の機械生物。

京劇の仮面を思わせる模様の化けコウロギ達は、戯鬼蟋蟀ジンジュウと呼称される。


奴らは、自分達の彷徨うろつく倉庫にが巡らされているの気づいた様子だ。

私は奴らが十二分それに近くのを見図って、猟銃の重い引き金を引く。




スタバシュッ!!!

と、倉庫に爆発音が響く。

辛うじて残っていた窓ガラスが砕けちり、下階には土埃つちぼこりが舞う。

放った弾丸を起爆剤とし、事前にニホカが張った糸状のアーツがしたのだ。



2体は装甲が剥がれ内臓を露わにするが、爆心から遠かった奴には余り傷がない。

虫共は臓物を飛び散らし悲痛の叫びをあげ、私達に明確な憎悪を向ける。


ニホカ躊躇せず、続けざまにアーツを放つ。

轟々と燃え盛る朱殷色しゅあんいろは、紅い軌跡を描いて虫共を突き刺し丸焼きにする。



金属の引っ掻き音に似た悲鳴をあげ、グジュグジュを剥き出しの2体は倒れ、残りの1体にも効果的な一撃だった様だ。おぞましい京劇仮面に亀裂が入り、そこをすかさず狙い撃つ。

弾が急所に当たる度、虫の体が跳ね上がって汁を飛ばすが、やがて動かなくなった。




「終わったァァァ〜〜わぁ〜〜……」

ニホカが安堵の表情を見せ、いつものニホカに戻る。


「予め待ち伏せといて良かったね。ニホカのお陰で楽に倒せた。」


「そーだね、我ながらアーツで罠を作ったのは得策だったわ。んじゃお仕事の続きしま……」


あっ、とか細い声を上げて倒れ込むニホカを私は受け止める。



「だ、大丈夫か?」


「おう、だいじょぶ。 えへへ……ちょっと制御ミスったみたい。少し目眩がしただけで、もうだいじょぶだよ。」


自力で立てると言い張る彼女を信じ、支えていた手を離してあげた。


「朝飯が牛乳モドキじゃ本ちょーしでねぇな。やっぱ担当に文句言う。」


「お前、まだそれ諦めてなかったのか?」


二人で見つめ合って笑みを浮かべる。

ニホカの体調が気になるが、過度な憂懼ゆうくかえって悪い気がして、感情を表に出さぬよう努める。




カラードも人間だ。得意とする能力以外は人並で、アーツにも副作用がある。

ニホカはかなり重い方なのでどうしても心配になってしまう。


元来カラードは、旧世代に禁忌とされた遺伝子工学を、機械生物に対抗するべく利用したものなので、副作用がある事は仕様がない。


「んじゃ、残りのお仕事かたして、早く帰ろう?」


「うん、そうだね。 じゃあ帰りケーキ買ってかない?」


「おーいいねぇ!!」



化け物の闊歩する都市外に、18の少女二人だけで仕事を任せるような世界。


私はもう少し、目の前ではしゃぐ親友と生きていたいと願う。

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