第4話 乳飲料とあんぱん 〈ジュダ〉

        ─新暦65年─

    Novem11月ber 24th24日 8:09|AM

      旧中國  大連跡地


「うっへぇえ〜〜 不っ味ーーーいまっじーーい。」


先程、あんぱんを嬉しそうに頬張ほおばっていたニホカが不満を垂れ、声が響く。

150cmの身長なのもあってか、足をパタパタさせブーブー文句垂れる彼女はとても18歳のに見えない。



ツタだらけで屋根は骨組みを残し消え、壁に落書きグラフィティを描かれた倉庫内には、初夏の晴れやかな日差しを浴びる私達二人。


一階には度重なる雨風で朽ち、散在するラックや、駄目になったダンボール達が草花と共に倉庫を満たし、私達のいる2階部の床もすっかり錆びていて少し心もとない。



横の彼女を無視するのも可哀想なので、適当に言葉を返す。


「どーしたニホカ。朝はあんぱん食えるって喜んでたじゃん。」



相変わらず不満が多い奴だと思いながら、牛乳を飲むと彼女の不機嫌の意味が分かった。



「うわっ。何これ不味……」


「言った通りだろぉ〜ジュダ? これ多分牛乳モドキだよ。しかも粗悪品の。」



牛乳の味ではない味がし、口の中に膜を張ってキモチワルイ。

ニホカも、苦悶の表情を浮かべながら牛乳モドキを飲み干す。



「おぇっ。 ちーとこれはヤバいだろ、支給担当に文句言ってやろう。」


「気持ちは分かるけど我慢しなよ。きっと何か理由があるんだろ。」



「でもさー、うぅん……

か弱き乙女二人に、これ飲んで仕事しろはないっしょ?」


「ぶははっ、か弱きって何だよ。ニホカはアーツ持ちなんだから十分強いじゃん。それに私達、2年半もこの仕事やってるんだから、そうやすやすと死ぬ事は無いだろ?」



親友の変な表現がツボに入った。

ニホカは口直しにあんぱんをみ、口をもごつかせながら喋る。


「私がカラードだからって慢心しない。アーツが使えるったって、個人で出来る事は違うし、万能じゃ無いんだからね。」



親友からごもっともな返信を受け取り、少し気がたるんでいたのに気づく。

ここは機械生物ワイルドライフの闊歩する戦場という事を思い出す。





─────────────────────



遠い昔、世界規模の気候変動や国際問題が起き、世界は混乱に陥った。


その最中さなか、国連とギュスターヴ製薬なる企業が主導となり危機を回避しようと、ある計画を遂行する。



それは〈ヴィダヘシュトロン〉計画である。



あらゆる技術を搭載した人工知能"ヴェヒター"に、世界中の行政実権を持たせ、人類の統治と世界の保全をさせる、常軌じょうきを逸した計画。



結果だけを言えば計画は成功している。



ヴェヒターは人類の選抜を始め、選ばれた人間を保全都市に収容し、残りの人類をした。


人の駆除には、くだん機械生物ワイルドライフなる殺戮兵器が使われている。

ギュスターヴ製薬が持つ生化学技術が使われたそれらは、実にバリエーションに富んでいて、自己繁殖が出来る種までいる。



計画は順調に進み、選民を除く世界人口は約18億。

しかし人々は旧暦2038年から2103年もの間しぶとく生き延び、世界に順応してきた。



新しいクレオール言語、ヨハネ条、カラード。



もしこれが物語だとして、とても一話では語りきれぬ歴史を紡いでこの世界に順応してきたのだ。

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