第3話 ただ当て所無く

       ─新暦65年─

    Septem9月ber 12th12日 9.36 PM午後 

    ナイル貿易  都市カイロ


手の平の62Λë$ドルを見つめる。

カイロでは、運良くまだ解体業者が営業をしていたので、先程のカメを解体してもらった。

案の定心臓は使い物にならなかったが、他にも貴重な臓器が内蔵されていた様で280Λë$と意外に儲かった気がする。



そこから人件費、夜間作業料(ボラれた)など解体にかかる手数料。

食料補充と道具のメンテナンス、宿代やらで俺の手元に残る利潤は手持ちと合わせ125Λë$となる。



「あのカメ、案外狩っておいて正解だったかもな。暫く楽ができそう。」



思わぬ収穫で少し心が浮つく。

外食で奮発するのも良いが、使わずに取っておこうかも迷う。

少しの間脳内会議が開かれるが、倹約癖のある俺の思考では貯金という議決が下される。



宿への帰り、何となく街を見回す為に、なるだけスローペースで帰路につく。


カイロは昔来た時よりも復興を遂げた様子だ。厚みを増した防護壁、街全域まで行き届いたインフラ設備のお陰で、人々は寒空の下であろうとお構いなく団欒だんらんしていた。



殺し合いの毎日に身を置いていた俺には、そんな日常が微笑ましい。

自分がやって来た事のお陰でこの街に安寧があると思うと、少し誇らしく感じられる。

が、それと同時に、腹の底から嫉妬心を募らせている自分もいるのが分かる。



なぜか、旧世代のカイロは首都として栄えていたと宿の主人が言っていたのを思い出す。

俺も道中通ってきたが、針葉樹の森に混ざり、運良く残った四面体の建物群からは確かに旧世代の栄華が感じられた。


急に不安と焦燥感を胸に覚え、足早に宿を目指した。


心身共に疲労困憊ひろうこんぱいな俺はベッドに倒れ伏す。

今後の予定について思考を巡そうとするが、疲れ切った頭からは行き場のない愚痴が溢れてしまう。







カラードは13歳かそこらで機械生物ワイルドライフとの戦争に駆り出される。

旧世代の人々が作った贖罪を、なんの罪も無い俺達に背負わせるのだ。

120人居た兄弟は、一ヶ月前には23人に減っていたと思う。


勿論、基地の大人達は人として俺達を扱ってくれたし、救助した避難民とかからも、心からの感謝や畏敬の念を感じた。


けれど俺が求めていたのは、そんな取り繕われた日常や、ヒーロー的な態度じゃない。

毎日を普通に生きて、大切な人と心から笑い合いたいだけなんだ。




不意にアオスタの顔を思い出す。


そうだ。まだ希望はある。



「いつかさ、……って所に戻りたいん……そこはさ、雪も降って…くって……」



朧げな記憶と眠気の中、アオスタがもう一度訪れたがった地に行こうと決意する。


望みは薄くとも、アオスタだって行く宛は無い筈。もしかしたら、いやそうであって欲しいと考えながら、俺は眠りに着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る