第2話 おーとまたーとる

轟音ともに雪に亀裂が入り、中から巨大な機械生物ワイルドライフが現れる。


最初俺は、上半部と呼べば良いのか迷うが、その部位が出たときは甲殻が金属製の巨大ガメだと考えていた。

カメ部分がみるみる上へと上がり続け、建物3階分の高さで止まる。

下半部でうねる触手が現れたのを見て、自分の予想が外れた事を知る。



「──ッチ。 ここまでデカいと心臓を狙うしかないか。」



奴ら、"機械生物"の臓器は人間のそれにも適用できる。

あのサイズだと2〜3人分に使えて金になるのだが、仕方はない。


幸い、周辺に潜んでいたのはコイツだけだったが、これは殺し合いだ。侮ってはいけない。

戦場への慣れと慢心で死んだ者は数多くいる。




「まずい、考えてる間に!! ッ──!!!」



なんとか避け、体制を直す。

こちらもシャムシールを鞘から抜き、これから始まる殺し合いの準備を始める。


鞘から抜かれたチタン製の刃は、青い焼色の付いた刀身を輝かせ、持ち主の手入れの良さを伺わせる。



カメ部分は上部だけ合金素材のような物で作られ、頭や触手は合成生成肉やら薄い人工皮膚やらで出来ている。


薄皮の触手の中でピンク色の筋肉が、次はどうやって俺を潰そうか考えあぐねて気色悪くうごめく。




どうやらあのカメ、久しぶりに活動を再開した為に、電子脳の再起動に時間がかかるようだ。

この隙にアンバルはクーラーボックスからを取り出し、薬液で刃を濡らす。



「後はなるようになれッ!!!」


己を鼓舞し、触手ガメと一気に距離を詰める。

再起動を完全に済ませ、思考がクリアになったカメは、肉々しい触手でアンバルを的確に狙う。


が、カメの動きは既に少年に読まれており、叩き潰そうと伸ばした触手は両断された。



丸太サイズの物が綺麗に両断できたのは、シャムシールに掛けた薬液、つまり彼のアーツでできた液体のお陰だ。

アンバルは、黄鉄鉱に似た金属と45℃以上で有機物を溶かせる液体の錬成アーツを得意とする。



痛みで暴れ、やはりこちらを押しつぶそうと林立する触手を避けきり、触手ガメの下に潜り込む。


「思った通りだ。 カメの下側に心臓がむき出しになってらあ。」



アンバルはアーツ錬成によって、思ったより広さのあるカメの下に、即席の階段を築き上げる。


プラチナ色に煌めく立方体のアーツは、カメの心臓へと続く道となる。


「……潔く死ね!!」


心臓に紺碧の刃が突き刺さる。

カメは意外にも、グオン。と一鳴きしてあっさりと倒れた。

倒れる、と言っても俺を下敷きにして。



「うへぇ…… 次からは下敷きにならない方法を考えねぇと。」



なんとか触手をかき分け出られたが、体は人工血液と溶けた雪でグッショリしていた。


「勿体ないけど、カメは置いていくしかないかな。カイロに着いて、業者がいたら連れてきて解体してもらおう……」



俺は、捨てきれぬ思考をなんとか振り払い、刀を鞘に収め、グッショリと重くなった体でまた目的地を目指し歩く。

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