ギュスターヴの大地 

赭梅/Shame

序章 戦場と鳥籠の子供達

第1話 雪原のギザ 〈アンバル〉

吹きすさぶ雪が、俺にのしかかり足取りを重くさせる。



どれくらい歩いたか。


タブレット端末を確認すると、俺は今3時間歩き通していて、目的地までまだ距離がある事が分かる。



16歳と、まだ年端も行かぬ少年アンバルは、轟々と音を立て視界を白く染める吹雪の中、とても防寒とは言えぬ軽装で歩を進める。

彼は、軍用リュックと肩がけのクーラーボックスを背負い、一振の大型湾曲刀シャムシールを肩から提げている。


通常なら手足が黒く変色し、荷物の重さに耐えかね意識も危ういはずだが、彼の場合は手足のかじかみだけで済む。



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それは、彼が色覚者カラードと呼ばれる人種だからだ。


旧世代、禁忌とされていた遺伝子技術を使い、並外れた身体能力等の向上、果ては魔法や魔術などと言われる類の芸当が使える新人類。


彼らの扱う能力は総じて芸術アーツと呼ばれ、アーツの使える彼らは畏敬の存在とされている。


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白一色ホワイトアウトした視界に、辛うじて見えるピラミッド群が世界にコントラストを与え、目的地の方角と、ここがかつてエジプトと呼ばれた地である事を証明する。



かつて在った熱砂の砂漠は、凍てつく亜寒帯の雪原となった。

……まあ俺は旧世代の景色を見た事がないので、真意の程は知らないが。



「懐かしい。ここには、前に3回程来たことがあったかな。」



不意に思い出す、懐かしい家族との旅行記。

家族と言っても、カラードだけで編成された部隊で、戦闘兵器として産まれた血の繋がらない義兄弟の事だ。


料理上手のアイシャが作ってくれるご馳走。

ピラミッドでツーショットを取ったアオスタ。

一緒にキャンプ地を遠出し、ゴマフアザラシを見に行ったサレハとハシ。


俺は止め処なく溢れ出しそうな思い出達を記憶の奥底にしまい込む。

今彼らを思い出しても自分が辛くなるだけだ。

俺の故郷、アシュート第12極点基地は崩落した。




忌々しい"ヴェヒター"によって。




でも、彼らが死んだと決めつけてはいけない。

いや、決めつけたくない。



「きっと、皆しぶとく生きてる。きっと。」


いまはそう思う他無かった。

そうやって、半ば逆恨みではあるが、俺を嫌な思考に走らせたピラミッドを憎む。


俺を拒絶するかの様にのしかかっていた雪は勢いを無くし、急によそよそしい態度を取ってきた。

タブレット端末を見やる。



「雪も弱くなって視界が良くなったし、もしかしたら思ってたより早く目的地につけるかな。 ……アオスタ達も居たらいい──」


言葉を言いかけ、足元に嫌な感触を覚えた。

迂闊だった。ブービートラップだ。

だがこんな雪原のど真ん中に何故???



考えている余裕はない。

足元のそれは嫌な警告音を発し、周囲に潜むに俺の存在を知らせている。


  ──ビィープ!ビィィィープ!!!──


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