人生売買システムに立ち向かう、俺たちふたりぼっち。
@kalifal
第1話 資金調達
「あーぁ…また売っちまった」
ため息をつきながら、心の中で呟く。
「あと、38年か。大丈夫、まだ十分ある。」
そう自分に言い聞かせ、店を後にしようとしたとき、背後から声が聞こえた。
「今回で、3回目の寿命交換ねー、しかも5年分も。わしだったら絶対やんないね」
もう70は超えていそうなレジの店員は白髪の頭を掻きながら、吐き捨てるように呟いた。
いや、正確には敢えて武瑠に聞こえるようにわざとらしく。
「俺だって、早死にしたくて売ってるわけじゃないんだ!」
「売りでもしないと、早死もなにも1ヶ月もせずに死んじまうんだよ…」
思わずカッときて言い返しそうになるところを半場諦めるようにぐっと堪える。
そんなこと言われるのも今に始まった話じゃない。
誰も俺の置かれた状況を本当の意味で理解してくれないことはこれまでの経験から十分学習済みだ。
まぁ大半のやつは表面上は同情してくれる。表面上は。
だからって金をくれる訳でもないし、寿命を分けてくれる訳でもない。結局は赤の他人なのだから、当然と言えば当然だ。
2年と3ヶ月前、あんな奇妙で意味不明なシステムさえ導入されなければ、無駄に足掻くこともなく、とっくの昔に土に還れたはずだった。
人間不思議なものだ。ほんの僅かでも生きる希望や可能性がある限り、どうしても生きるという選択肢を選んでしまう。
店からの帰り道、梅雨時の雨がわざとらしく風向きを変えながら武瑠を濡らす。せめてリュックだけは濡らせまいと一旦、肩から外し前に背負いなおした。
コンビニでいつもの缶ビールと適当なつまみを買い、アパートまで帰った。
もともと酒はそこまで好きじゃなかった。
ただ、大学を卒業し昨年から社会人となり、日々のストレスが酒に変わるようになった。
缶ビールを開け、見る気もないテレビを付ける。別に何の番組でもいい、ただのBGM代わりなんだから。
しばらくして卓上に置かれた封の切られた郵便物に手を伸ばし、中に入ってるパンフレットに目を向けた。
「1人につき5回まで」
「1回につき最大10年分」
「売価は当人の将来性を金額に換算し算出」
赤く目立つように明記されたその3行をじっと見つめる。
「あと2回… それまでにあれだけはどうしても終わらせないと」
唇を噛み、体に自然と力が入る。
武瑠は思い出したように、ポケットからスマホを取り出し、3つしか登録されていない連絡先に目を向けた。
2,3回画面をタップし、スマホを耳に押し当てる。
「あ、もしもし聡 今、いい?」
「例の人生売買システムの話なんだけどさ、どうも間に合いそうにないんだ」
「とりあえず俺は寿命5年分と引き換えに580万を調達した」
聡は俺の唯一の友達だ。
いや、友達と言っていいのか。
俺と同じ使命を持つ唯一の仲間 という方がしっくりきそうだ。
「武瑠、お前もか。俺もついさっき450万調達してきたとこだ。」
やはり、聡も考えることは同じだった。
いくら寿命があったって、寿命が尽きる前に死ぬことが分かっていたら、誰だってそうするだろう。
人生売買システムに立ち向かう、俺たちふたりぼっち。 @kalifal
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