4.帰り道
「はぁ~歌った歌った」
「もう喉ガラガラ」
だいぶ酔っ払って、真奈美と一緒にカラオケ店を出たところだった。
「二人で話すの久しぶりだね」
「なかなか予定合わないしね」
興奮して火照った身体を夜風が冷ましていく。人もまばらな歩道が歩きやすくて楽しい。
「あ、吉牛」
真奈美が指差す先には二十四時間営業の吉野家。
「食べてく?」
「いや、入らないって」
「だよね」
笑い合いながら通り過ぎる。ちらりと中を窺えば、くたびれたスーツのおじさんが一人だけ取り残されたように座っていた。
「明日も吉牛?」
「ちょっと悩んでる」
「なんで?」
「真奈美に言われて、思うところがあったから」
「どんなところ?」
「秘密」
「えーなんでよー」
アハハと笑う私たちの声が夜に吸い込まれていく。
「あ、満月」
「ほんとだ」
吉野家で毎日朝ご飯を食べることも、緑川の愚痴も、おんなじ定食屋のおんなじメニューも、私が私に対して使う言い訳だったんだなぁと、真奈美を眺めていてひしひしと感じた。
大人になることと、諦めることが同じ意味になっていたのはいつからだったんだろう。
それがわかったからって、明日からすぐに変えられるとは思わない。
だけど、今、真奈美と二人で見ている月みたいに、少しずつ、少しずつならできるかもしれない。
明日がちょっとずつ今日になるのを感じながら、真奈美と肩を組んで帰った。
いつも吉野家で朝食を 燈 歩(alum) @kakutounorenkinjutushiR
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