第2話 現代版桃太郎
「“現代版桃太郎”なんてどうかな」
「ありきたり。却下」
「もっとちゃんと聞いて!どうですかね!」
「よくある話でしょ。どうせ家が今風の一軒家だったり、携帯出てきたり、そんなことでしょ。聞かなくても分かる。ありきたり。終了」
「そんなばっさり切らないでよ!ちょっとは聞いてくれてもいいじゃん!」
「うるさいな。じゃあ話すだけ話してよ」
「やった!じゃあいくね。よく聞いてね」
「はいはい」
「『時は現代、お爺さんとお婆さんはとある一軒家で仲睦まじく暮らしていました』」
「本当にありきたりだな。私の言った通りじゃん」
「まあ、聞け。『お婆さんが自宅で洗濯をしている中、お爺さんは近所のスーパーは買い物に行くことになりました。』」
「ねえ、ちょっと待って。桃太郎は?もういるの?どこから出てくるの?」
「もう、せっかちさんだな。現代版だよ。ちゃんと出てくるよ」
「ああ、よかった。え、でも、どこから」
「続けるよ。『お爺さんは多くの荷物を持つことが大変で、コインロッカーを利用することにしました。』」
「え、ちょっと待って、」
「『すると、ある1つのロッカーから赤ん坊の泣き声が「アウトー!!!」
「ちょっと、途中で止めないでよ」
「ふざけるな!アウトだ、アウト。どこで出るのか待ち望んでみれば、まさかのコインロッカーだと!?何突然社会問題ぶっ込んでんだよ。犯罪だぞ。警察来て、あっという間に大事件だ。鬼退治も何もなく物語終了だよ」
「何でよ。じゃあ何、スーパーで買った桃から飛び出した方がよかったの。桃切ったら小さい人間が出てきました、みたいな。今の時代、それこそ大問題じゃない。何で人入ってる桃売ってんだって、スーパーと農家さんまで巻き込んだ大問題、重罪だよ」
「どの時代でも、本当だったら大問題なんだよ、ばーか。じゃあ、普通に出産でいいじゃない」
「お爺さんとお婆さんだよ!?」
「親戚から預かってるとかにすればいいでしょ!」
「何で親戚から!?虐待!?可哀想だよ!」
「そこはスルーしてよ!」
「理不尽!まあ、いいや、ここは再考する余地あり、っと」
「まだ考えるの」
「より良い作品を作るには、再考を繰り返すことが大事なんだよ」
「ねえ、待って」
「ん?何?」
「怖いから、事前に聞いておきたいところが何個かあるんだけど、いいかな、先に」
「えー、せっかちさんだなー。特別だぞ」
「あんた、今机挟んでてよかったね」
「私もそう思う」
「まず、家来になるはずの3匹はどうなってるの」
「あー、動物ね。犬、猿、雉を今の世界で家来にするのは、動物愛護法違反になりかねない。敵に立ち向かえ!、なんて動物虐待ギリギリだよね。そもそも雉なんて手懐けちゃ駄目だよ。生息率だって多くないっていうのに。と、いうことで、ここはもう、犬山、猿島、雉田、という3人の友達ということにする」
「あ、生き物自体変えるのね」
「そうだよ。吉備団子をあげる、なんて以ての外。野生動物に餌あげるのも駄目だし、お団子食べるとお腹こわしちゃうもの。食べれないでしょ。絶対駄目。だったら、友達にご飯奢ったら、知らない間に慕われちゃってた、っていう方が現実的でしょ」
「それもそれでどうかと思うけど」
「そうかな。友達なんてそんなもんよ」
「あなたの友人関係が、少し心配になってきた……。まあ、いいや。そこは分かった。で、鬼ヶ島は?」
「それこそ現実的じゃないよ。どこよ、鬼ヶ島って。鹿児島県の離島?」
「何で突然鹿児島県が出てきたのかは分からないけど、絶対違うと思う」
「でしょー。だから、鬼ヶ島っていう会社にしようと思って」
「会社……」
「“株式会社 鬼ヶ島”。れっきとしたブラック企業」
「ブラック企業……」
「社長の鬼原のせいで、部下たち社員一同は疲弊し切っている。どうにかしてその企業の裏をとり、社長を下ろして、労基法に基づいたホワイト企業に作り変えるまでの、サクセスストーリー!なんてね」
「なるほど」
「どうよ、どうよ。いいと思わない?」
「犬山、猿島、雉田、そして、桃太郎。4人が、鬼原が経営するブラック企業に挑むサクセスストーリー、と」
「そうそう!」
「桃太郎の出生はともかく、物語としては一通り成立してはいる……」
「でしょ、でしょ!」
「ねえ、これって、」
「え、何?」
「そもそも桃太郎である意味、ある?」
「……へ」
「ここまで変えたらよく分かんないし、普通の現代劇の作品として描いてくれればよくない?」
「え、あ、確かに」
「桃太郎っていうモチーフがあるからおかしな話に聞こえるけど、それがなければ普通にいい作品になるよ。桃太郎要素も全くないわけだし、寧ろ邪魔。単純な現代劇。描けるでしょ、あなたなら」
「そうだね。桃太郎が出てるだけで、桃太郎要素があるだけだね」
「そうだよ。既に全く中身違うもの」
「個人的には、そもそも、桃太郎っていう名前も周りから馬鹿にされそうだから変えちゃおうかと」
「それはもう、全く違うものだよ」
--
「……という脚本なんですが、どうでしょう?」
「いや、却下で」
短編集 ぽん @hkpon
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。短編集の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます