アルミ缶の上にある蜜柑
砂竹洋
第1話
アルミ缶の上に、ある蜜柑。
その蜜柑は――平凡であった。
蜜柑農家で生まれ、農家の方々に大切に育てられた蜜柑は――決して驕ることなく、ただただ平凡に、人に食べられる事だけを夢見ていた。
ただし、アルミ缶の上にある蜜柑は、食べられる事は無い。
蜜柑が悪いのではない。強いて言うなら――それを食べない人が悪いのだ。
アルミ缶の上に蜜柑を置いた――人が悪いのだ。
なぜなら蜜柑は、アルミ缶の上にあるべきではない。
アルミ缶は、蜜柑を載せるために生まれてきたわけではないからだ。
アルミ缶は、その体に液体を入れるために存在している。
稀に固体を入れる事もあるが、アルミ缶はその体にものを入れるためにある。
間違っても、頭の上に蜜柑を置くことなど――無い。
その人生、いやアルミ缶生において、頭に蜜柑を載せる事など想定もしていなかったのだ。
だから、アルミ缶も悪くない。
誰も彼も――己の生き様に恥ずべき点は無い筈なのだ。
ならばどうしてその蜜柑は食べられる事が無いのだ。
どうして、このような仕打ちを受けなければならないのだ。
その蜜柑は、このまま放置され続ける事だろう。
アルミ缶の上にある蜜柑。
そんな上辺だけの情報を面白おかしく流布されながら。
原型を留める事が出来ない程に腐り果ててしまうまで。
――その一生を、笑いものにされたまま終えるのだ。
アルミ缶の上にある蜜柑 砂竹洋 @sunatake
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