解説 Ch.1-7
Ch.1 デッドリー・ディレイ(Deadly Delay)
導入部。悪魔と契約してでも美桜を生き返らせたい、と流雫が思っていた部分は当初から有った。ファウストの行は発案時には無かったが、後に無理矢理組み入れた。ここでは、後にゲーテの戯曲を筆頭に多数の作品の下敷きとなる、ファウスト伝説を持ち出した。
トーキョーアタックで美桜の死は既定路線だったが、当初は流雫の両親が空港に迎えに来ていて、帰国して再会する直前に爆弾テロで死ぬ設定にしていた。その時は、流雫はイミグレーションの最中にテロに遭遇する設定だった。
ただ、そうすると元々日系フランス人である流雫が、日本にいる理由がなくなる。そのため、フランス系日本人と云うことにした。
日本に帰化した上で、両親は仕事でフランス在住、流雫は親戚のペンションに預けられていることにしたが、ペンションの理由は特に無い。
東京中央国際空港のベースは東京国際空港(羽田)だが、作者が個人的に国内線専用の第1ターミナルしか使わないため、第1ターミナルに無理矢理国際線の設備を設けたイメージ。
シエルフランスはエールフランスを捩ったもので、日本路線に使われていないエアバスのA340をモチーフ。着陸シーンから始まるのは当初からの案だが、このプライベートジェット(エンブラエルのレガシー600)は第2幕にも関わってくる。
飛行機の延着が、死ななかったもののテロに遭遇した原因と云う意味で、サブタイトルを「致命的な遅れ」にした。
Ch.2 トーキョーアタック(Tokyo Attack)
Lunatic tearsは限りなく日本の設定をリアルに近付けようとした。当初は東京五輪が大成功を収めインバウンドが加速した設定だったが、昨今の社会情勢に合わせる形で強行した末に大失敗し、強引にインバウンド依存の経済復興に賭けると云う、如何にも小手先だけで動く日本の政治らしい設定にした。
因みに、作中では書いていないが、一応は集団免疫も備えた上で毎年のワクチン接種が義務化されているため、2019年以前の生活が普通にできていると云う設定。
そして、作品の世界観の大前提となる事件、トーキョーアタックこと東京同時多発テロ事件についての説明と、それに伴う銃刀法改正の動きを前提として説明する必要が有った。そのため、このエピソードは世界観の解説と云う位置付け。
空港のテロは1972年5月のテルアビブ空港乱射事件、渋谷のテロは2015年11月のパリ同時多発テロと2020年8月のベイルート港爆発事故がベース。
余談だが、トーキョーアタックは死傷者数で見れば2箇所合計で2001年9月のアメリカ同時多発テロの次に多く、日本国内では1995年3月の地下鉄サリン事件を超える最悪の事件となった。
因みにトーキョーアタックとは本来、1945年3月の東京大空襲を指すらしい。地下鉄サリン事件はトーキョーサリンアタックと云われる。
Ch.3 ブラッディ・マンデイ(Bloody Monday)
教会爆破の影響で学校も被害を受けるのは既定路線。しかし今思えば、学校まで被害を受けるほどの爆発力は周囲の損害も大き過ぎるだろう。
学校に侵入してきた犯人は、元々は爆発物を仕掛けるのを、遠目ながら流雫に見られていたことに気付いたための口封じ目的。今となっては無茶な設定だったが、流雫が初めて人を撃つと云う体験のためには好都合な噛ませ犬だった。
普通は、単なる高校生が武装した犯人と遭遇して、咄嗟に銃を構えて撃てるとは思えないが、もたつきを突かれて撃ち殺されては話が続かないため、作品故のご都合主義。
流雫の銃のベースは、イスラエル諜報機関モサド仕様のベレッタ。スティーブン・スピルバーグの映画「ミュンヘン」の原作となったノンフィクション小説「標的は11人 モサド暗殺チームの記録」(ジョージ・ジョナス)に、銃弾の火薬の量を減らして殺傷能力を下げた一方で、静音性に優れている、モサド仕様ベレッタの特性が書かれている。流石にセーフティロックは付けたが。
そして、流雫が好きな映画監督(リュック・ベッソン)の作品の見様見真似、それが上手くいった、ビギナーズラックと云う形。かなりハードランディングだったと思うが。因みに、作中では名指しこそしていないが、リュック・ベッソンとジェイソン・ステイサム、ジャン・レノが好きなことが後々大きな意味を持つ。
ガレットは単に作者が好きなだけ。ガレットを得意料理とするため、ブルターニュ地方を故郷とした。他にもリエットも得意。
Ch.4 ミッドナイト・タイムライン(Midnight Timeline)
位置付けは閑話休題その1。澪の初登場。2人のネット上でのハンドルネームは、判りやすく本名をカタカナにしたもの。澪……ミオのアイコン、サバトラの猫は作者が個人的に好きだから。近所の地域猫のサバトラの写真と云う設定。
2人がネットで知り合っただけの、文字でしかやりとりをしたことが無い関係を強調し、その上で流雫は澪を頼れるフレンドとして思っていることを説明した。
ネットニュースのコメントがきっかけで知り合うのは、トーキョーアタックが2人を引き寄せた現実が、エンディングまで意味を持つことになり、その呪縛を際立たせる意味が有った。
ここまでが、元々の企画で固めていた部分。
Ch.5 ブレイクスルー・ザ・リミット(Breakthrough The Limit)
ここからがほぼ全て新規作成。ホールセールストアは、作者が行ったことが無いコストコホールセールの店内を適当にイメージしたもの。
銃弾をこう云う店で、手続きさえ踏めば購入できるシステムを説明することで、あくまでも銃犯罪やテロへの護身と云う目的に限定した銃の所持と云う説明を果たさせる。また、警察署以外で販売していることで、ストア内での戦闘シーンを実現させることができた。
また、そのシステム故に「銃で敵を撃ち殺していく」活劇ではなく、あくまで「生きるためのヒット・アンド・アウェイ」と云う、最低限の弾数……6発しか持てず、逃げ道を切り拓いて生き残るために撃つ、と云うスタイルで今後の戦闘シーンを書く、と云う宣言をする意味で必要な戦闘だった。
精神の消耗戦の末に、サブタイトルの通り限界突破を迎えて流雫の頭に銃を向けたモブの男を撃つと云う構図は、相手はテロ犯ではないが護身のため、と云う1度目とは異なる結末にしたかった。ショルダーバッグは作者の私物(Samsonite RED トランシエント)がベースだが、何度も空のバッグに手を入れては、銃を出すための一連の動きを確かめた。
また、澪が本格的に出てくる初めてのシーンとしても重要になる。
Ch.6 ビー・オン・ユアサイド(Be On Your Side)
美桜の数少ない登場シーン。但しこの時点ではあまり深く美桜のキャラ設定を構築していなかったため、扱いがかなり大雑把。美桜の押しの強さ、それに引っ張られる流雫と云うパワーバランスは、澪と流雫になっても変わらない。美桜のことに関しては今後、或いは短編or中編のスピンオフで概念を中心に出してみる予定。その時は美桜と澪の話にしたい。
その上で、サブタイトルが示唆する通り、流雫と澪が急接近する。特に流雫にとっては、澪の存在を意識させるきっかけになる意味で特に重要。
Ch.7 ノット・ビー・ア・ヒーロー(Not Be A Hero)
当初のキャッチコピーは「ヒーローになんてならなくていい、ただ殺されないために」だったが、その流雫のスタンスを明確にするためのエピソード。
学校も医者もステレオタイプで、しかし銃を使った当事者にしか判らない心理を書き出してみることにした。
因みにこのステレオタイプの意見も一般論としては間違っていないが、これは第2幕にも出てくる。
また、ここで澪が流雫と会うと決めたことが、次の戦闘へのフラグになる。
Lunatic tears -Backstage- AYA @ayaiquad
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