御曹司と、私

バブみ道日丿宮組

お題:悲観的な御曹司 制限時間:15分

御曹司と、私

 経験豊富であれば、彼女は僕の元を去らなかっただろう。

「なんてことを考えてるんじゃないですよね?」

「……なんてことを考えてるんだ」

 ベッドに寝転がった御曹司はうぅと情けない声を上げる。

「あなたが経験豊かになる条件がそもそもないのですよ。あなたの隣には私さえいればいいのです」

「でも、人肌恋しくなるよね?」

 それはどうだろうか。

 私という人間がそばにいれば、そんな想いはまずさせない。

 というより、してるのは許せない。誰でもないこの私が隣にいるというのに、どうして他のメスに目を向けるのか?

 意味がわからない。

「私がいればいいじゃないのです」

「そういって、メイドたちを売り払ってるの知ってるよ」

「ちゃんと就職先も探してあげてますのです。退職金もかなりの額をあげてますのです」

 深い溜息が耳に入った。

「そりゃ君は可愛いし、誰もが欲しがるよ。でも、僕には君をどうこうする器量がないよ。今だってどうすればいいのかわからない」

「素直に抱くという考えにはならないのです?」

「……恐れ多いよ」

「他のメイドには手を出すのに?」

 えぇ……という悲鳴に似た声が聞こえる。

「だって、彼女たちが誘惑してくるんだよ。抱いて、抱いてほらって」

「彼女たちはあなたの価値を利用してるだけなのです。私は違いますのです」

 起き上がった御曹司はこちらを見る。

「でも、可愛くないと興奮できない僕はどうしたらいいのか……」

「跡取りは必要ですが、それは私との遺伝子を掛け合わした子どもを作ればいいのです。行為で誕生するのが一番いいでのですが、その他の手段も持っていますのです」

 研究は進んでると聞いた。実装もまもなくと。

「……そうなの?」

 心配そうに困り顔を作る御曹司はとても可愛かった。

 思わず食べてしまおうかと考えてしまうが、踏みとどまった。

 今はダメだ。

 数分後に執事長がご飯を届けにやってくる。それに鉢合わせるのはまずいだろう。私がなにをしたとしても文句はいってこないだろうが、覗かれる趣味はない。

 私は高飛車であっても、露出狂ではない。もちろん、誰かに御曹司を取られるというのはもっとない。

「では、後ほどまたきますのです。その時はちゃんとしてくださいのです?」

 う、うんと控えめな声を背中に浴びつつも部屋を後にする。

 廊下にはタイミングがいいのか、執事長がトレイを運んでるところだった。

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御曹司と、私 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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