第五話 活動場所に行くぞ!
高校生活二日目の野原カリンと和田チナツは演劇部に仮入部すべく、校舎一階にあるホールへと向かっていた。野原にとって、階段を避けてエレベーターのみで移動しなければいけない状況は目新しいものであり、ちょっとした学校探検気分だった。
「めっちゃ遠回りするじゃん?面倒くさくないの?」
「遠回り、かな?時々階段使えたら便利だなとは思うけど、ここは全然いい方だよ。」
「いい方?」
「そう!こないだちょっと遠出したときの話なんだけどね、すごく混んでる道通ってエレベーターまで行ったら点検中だったの!それで、また混んでる道戻っていって、昇降機動かしてもらって…。」
「昇降機…?」
車椅子とは全くと言っていいほど縁がない野原は、和田の言葉を繰り返すことしかできない。
「んーと、階段の上をリフトみたいにこう、ウィーンって行くやつ。」
「なにそれ!見たことない!」
「…でも係員さんに迷惑かけちゃうし、それに私、ちょっと恥ずかしいから苦手なの。」
「へー、でも私ちょっと乗ってみたいかも。…あ、ここがホール、だよね?」
色々と話しているうちに二人の前にはホールの重厚な扉が現れる。野原がギィ、と扉を引くと、中から部員と思しき人物が現れる。
「あー、仮入部っすか?…えと、ちょっと待ってて。」
「あの、もしかして今村さん…ですか!?」
立ち去ろうとする部員を追いかけてホールの中に入った野原は目を輝かせる。
「去年の秋の舞台、見てました!演技めちゃめちゃすごくて、一年生って知ったときはびっくりしました!」
「えっと、ありがと。後輩にそんなこと言われるとなんか…はずいな。」
「あ、そっか!私、先輩の後輩になれるんだ…!私宮藤に来たんだ!!」
「じゃあ、先輩呼んでくるから、ちょっと待ってて。」
1人浮かれる野原を置いて、今村は奥へと消えていく。
「あっ。」
野原が入っていったあと、閉じてしまった重たい扉の前で和田は少しだけ困っていた。まだ出会って二日目だが、和田は野原のことをそれなりに分かっているつもりである。天然なのか、時々もやっとするような言動はあるが、裏表がなく優しい人間…だと思っている。もやっとする言動も、きっと指摘すれば直してくれるだろうし、謝ってくれるタイプだ。でも、指摘したその瞬間に重くなってしまう空気が、和田は大の苦手だった。少しのもやもやは、ご飯を食べて眠ればすぐに忘れるのだから、なにか言って正すよりも、相手にただ笑っていてほしいという思いが、和田の普段の言動を柔和なものにさせていた。
あの様子だと、あの部員さんは知っている人だったのかな。私がこの扉を開けるのと、野原さんかあの部員さんが戻ってくるの、どちらが早いだろう。
「お、仮入部員?」
扉に手をかけようとした時、見知らぬ教師が近づいてきた。「あー、いいよいいよ。俺開けるから。」と和田の横に立ち、扉に近づいた。
その瞬間。扉が内側から開く。
「ごめんね!置いて行っちゃって…あれ?」
外開きの扉に顔をぶつけたその教師は「っ、たぁ〜」と顔を押さえている。
「あ、すみません。大丈夫ですか?」
「えっ、大丈夫ですか?」
と、野原と和田は同時に声をかける。教師は親指を立てるが、鼻からは赤い血がたらりと流れた。
「あーあー。先生またっすか。呪われてるんじゃないっすか。」
野原の後ろからひょこっと顔を出した今村が顔色ひとつ変えずに言ったのに対して、その教師は、
「いやー、扉新しくするように言ったほうがいいかもしれないなあ…。」
と、満更でもない様子だった。
「中、いろいろ準備できたから。仮入部でしょ、おいで。」
今村が扉を開けて中に入るように促す。こうしてようやく、仮入部が始まるのだった。
車椅子を壊せー宮藤女子高等学校演劇部の話ー 八州冷 @rae_real
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