第四話 新入生の噂話
新入生の入学式が終わり、がらんとしたホールに演劇部員が集まる。在校生代表として三年生よりひと足早く新入生を見物していた二年生たちは、やれ「可愛い子がいた」だの「めっちゃ平均身長高い!生意気!」だの「超イケメンいたんだけど!惚れそう…」だのと騒いでいる。
「ほら!もうみんな先輩なんだから!いつまでも後輩気分でいないでさっさと動いて!」
そうやって一人声を張り上げるのは、就任して半年の部長である高橋メイだ。声をかけられれば部員は動くが、やはりどこかのんびりしている。
前の部長のときはもっとみんな真面目だったのに、と高橋はため息をつく。
宮藤女子高等学校演劇部は創部50年の歴史があり、そこそこ有名な女優も数名排出しているそれなりの部活である。しかし、総部員数は現在11名、最後に全国大会に出場したのは10年以上前だ。取り立てて強豪や名門でもなければ、校内での知名度も低い。部員全員が全国大会出場を目標にしているわけでも無ければ、プロを夢見ているわけではないことを高橋は理解していたが、それでも青春を捧げる以上は全力を尽くすべきではないか、と少し不満げな表情を見せる。
「そういや部長。あの、あそこ。照明の部屋って階段じゃなきゃ行けないっすよね。」
発声練習を終え、休憩時間中に2年生の1人、今村ユウが声をかけてきた。
「調光室?まあ、言われてみれば確かに。この学校バリアフリーって割にせっまい階段多いんだよね。大道具とか運ぶ時困るんだけど。」
不機嫌だった高橋は、思わず日頃の愚痴まで吐き出してしまう。一方話題を振った今村はそんな愚痴など聞いていない様子で「あー、そうだ。ちょーこーしつだ。名前出てこなかった。」と1人納得していた。
「で、なんで突然そんなこと聞いてきたの?役者から照明に転向したいの?」
少し気分が良くなった高橋は、からかうような調子で今村に尋ねる。
一年前の今頃、今村は入部早々「あたし演技力しかないんで、スタッフとかできないっす。」と豪語し、ある種の伝説となっているのだ。
「いやあたしは役者しかできないっすけど、なんか新入生に車椅子がひとりいたんすよ。それで、もし部員になったら照明とかは無理なんだろうなって思って。」
車椅子。その言葉に高橋は少し嫌悪感を覚えた。この春フェス用に書いた台本を審査員に酷く言われたことを不意に思い出してしまったのである。
「相変わらず着眼点が不思議だよね。ひらめき?想像力?はあるのにそれが演技以外に生きてこないの。役者以外向いてなさそう。」
「馬鹿にしてるんすか。」
話の主題を今村にすり替え、春の苦い思い出を思考の外に追い出した高橋は「してないよ。」と笑い、今村から離れる。
「はい!休憩終わり!今日は明日からの仮入部に関するミーティングをするので集まってください!」
そんな高橋が仕切るその日のミーティングは、当然のように車椅子が来ないことを前提にしていたのである。
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