⑪
「おかえり。おやつできてるわよ」
気づけばそこは都会でない。人口何百人の人たちが住む集落の一角にある家の中だった。
そのなかで母が手作りのおやつをテーブルの上においている。リビングの方では父が本を読みながらくつろいでいる姿が見えた。
「お母さんのおやつだ!」
恭一の後ろにいたはずの瑠美が母の作ったおやつに手を伸ばしておいしそうに食べ始めている。
これは何だろうか?
恭一は呆然と立ち尽くしていた。
すると母がこちらを見た。
「恭一、なにそんなところで立っているの? あなたのすきなチョコレートクッキーよ」
そういって、手作りクッキーを見せる。
チョコレートクッキー?
確かに恭一が子供の頃の好物だった。
特に母の作るクッキーは絶品でいくら食べても飽きないのだ。
「おいで」
「お兄ちゃん! 美味しいよ」
瑠美がクッキーを見せながら無邪気な笑顔を浮かべている。
「おいで。ほら」
母が笑顔を浮かべながら手招きをする。
これはどういうことだ?
母も父も死んだはずなのに、なぜここにいるのだろうか?
「どうしたの? 早くおいで」
「お兄ちゃん! 食べなよ」
瑠美はそういいながらクッキーをひとつ手に取ると恭一のほうへと持ってくると、恭一のほうへと指し出した。
「ああ」
恭一が戸惑いながら受け取ると瑠美は再び母の方へと掛けていった。
それを見送った恭一は手渡しされたクッキーを口にする。
美味しい。
母の味だ。
子供の頃の大好物だった母のクッキーの味。
「ほらほら恭一そんなところに立ってないで、こっちに来なさい」
「ああ」
恭一はテーブルの方へと歩み寄ろうとする。
そのとき一瞬だれかに腕を掴まれたような気がして恭一は後ろを振り返る。だが、だれもいない。そこには襖があるだけだった。
気のせいだろうかと首を傾げるとそれ以上何も考えずにテーブルについてお菓子を食べ始めた。
ロストソウル 野林緑里 @gswolf0718
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ロストソウルの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます