さよなら……
「さようならだね」
彼女はそう言った。
「さようならなの? 君はどこへいくの?」
僕が尋ねる。
「向こう側にいくの」
そう言って彼女は川原の向こう側を指差した。
「向こう側? よばれたんだね」
僕は彼女の言葉をすぐに理解した。彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべている。
僕はその笑顔をみて心から喜んだ。
ようやくなんだね。
ようやく君は呼ばれたんだね。
よかった。
本当によかった。
そう思う一方で僕は寂しさを覚えた。
それに気づいたのか、彼女は僕の手を握る。
「大丈夫。大丈夫だよ。君もいずれ呼ばれるからね」
「でも」
その日はくるかもしれない。けれど、その先に彼女はいるのだろうか?
もう会えないのではないか。
そんなのはいやだ。
僕はそう思った。
「大丈夫。大丈夫だよ。また君に会えるから」
「どうしてそういえるんだい?」
「なんとなく。だって、私は何度も君にあっているんだよ。君は知らないかもしれないけど、私は何度も呼ばれていった先で君にあっているんだ」
「なぜ、そう思うんだよね。そんなことありえるのか?」
「大丈夫。願いはかなう。だから、さきに行ってまってるから、必ず私を見つけてね」
そういって、彼女は歩きだした。
川の向こう側
呼ばれる先へと歩きだし、川を渡っていく。
やがて、彼女の姿は消えていった。
*********
「オギャア、オギャア」
「おめでとうございます。元気な男の子です」
声が聞こえる。
誰の声なのだろう?
よくわからない。
彼女とさよならしてから、どれくらいたったのかわからないけど、僕はようやく呼ばれたんだ。
呼ばれて川を越えて、僕は呼ばれた常世へとやってきたんだ。
ようやくやってきたよ。
どこにいるんだい。
君はどこにいるんだい。
声は聞こえる。
だけど、まだはっきりと見えない。
「待っていたわ」
声が聞こえる。
温もりも感じる。
「ようやく会えたね。私の愛しい人」
いた。
なんだよ。
こんなところにいたのか。
僕はすぐに理解した。
待っていてくれたんだね。
待ちきれなくて、結局君が僕を呼んだんだね。
また会えたね。
これからは一緒だよ。
お母さん
地味な県民の地味にいろいろ書き貯めた短編集 野林緑里 @gswolf0718
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