甘酸っぱいパンケーキ

秋吉 鳳酒

日常1日目


ふわりと甘い香りがリビングの方から香ってくる。

甘い香りの正体はなんだろうと、目を開けると隣で一緒に寝ていたはずの恋人がいない。

ボーッと目線をリビングに繋がる扉に目を向けると、少しだけ扉が空いていた。

ゆっくりベッドをでる。きっと、あの温かく光るリビングにはご機嫌な恋人がいるのだろう。

「おはよう。休みなのにはやいね?」

そう言いながら、リビングに入っていく。

なにかを真剣に焼きながら、おはよーと返事をする。

「何焼いてるの?」

気になって後ろに立ちながら肩越しに焼かれているものをみる。

「ん?ホットケーキ。久しぶりに食べたいな〜と思ってホットケーキミックス出したの」

「あぁ、だから甘い匂いがしてたのか」

「ほら、もうすぐ焼き終わるから顔洗ってきて。」

「はーい。ママ」

「こんな大きい子供を産んだ覚えないんだけど…」

ほら、とっとと顔洗ってきてと背中を押される。

そういえば、今日はキスの日だって昨日テレビのアナウンサーが言ってたな…。

いまだに背中を押してる彼女に向かい合い、えっ?なに?と困惑している顔をみながら子供のようなキスを1つ頬に送る。

「パンケーキ楽しみにしてる」

じわじわと赤くなる顔をしながら、そう言い残しその場を離れる。

顔を洗い、歯を磨いているとパタパタと廊下を走る音がする。

バンッ!という音をたてながら洗面所の扉が開かれる。

「今のなに!?」

うっすら顔を赤らめながら洗面所に入ってくる恋人。

この顔がみれるなら習慣づけようかな?でも、たまにやるからいいしな〜と思っていると、肩をつかまれ前後に揺さぶられる。

「いひゃい。いひゃい。」

「さっきの!」

「んー、あいひゃつかな?」

「…まず、歯磨きをおわらしてから喋って」

「ん、」

口をゆすぎ、歯磨きを終えて彼女にむきなおる。

あっ、顔の赤み引いてる…勿体ない…。

「いま、なに考えた?」

「ナニモオモッテマセン」

「へぇ〜…とりあえず!説明!」

「えっ、恋人に口付けるのに説明がいるの!?」

「いつもやらない行動をしてるから聞いてるんでしょ!?」

「…なら、いつもしていいってこと?」

「……ここで許可だすと悲惨な未来が見える気がするから却下で」

「ひどい〜まぁ、説明というかね?ほら、日付みてみて」

玄関近くの廊下に貼ってあるカレンダーを指さす。

素直にカレンダーをみにいく彼女の後ろについていく。

「みたけど?」

「今日ね、キスの日なんだって。」

「…珍しく世間様のイベントに乗ってみたと?」

「正解!」

「なるほどね。キスの日ねぇ…」

さすがにお腹すいたなぁ。

なにか企んでるような顔をしてる彼女の手を繋ぎ短い廊下を歩く。

リビングにつくと、机にはもうすぐに食べられるようにパンケーキが並べられていた。

彼女を席に座らせ、自分は生クリームを取りに行く。

几帳面な性格がでてるのか、きれいな焼き目のついたパンケーキ。

おいしそうだなぁと思いながら生クリームを持って席につく。

「…太るわよ」

「幸せ太りだから大丈夫」

「なにも大丈夫じゃない理由ね…」

「いる?」

「いる」

2人揃って生クリームとはちみつをパンケーキにかけ、いただきます。

ふんわりとしたパンケーキと生クリーム、はちみつの甘さがかけ合わさって美味しい。

「至福の時だ…」

「なに馬鹿なこと言ってるの?」

「んー、甘いものは正義だなぁと思って」

「世界の真理ね。」

「甘党でよかった!」

「…そうね、甘党同士でほんとによかったわ。こんなこともできるし」

そう言いながら、体をのりだし私の顔をペロッと舐める。

「へっ?えっ?なに?」

「生クリーム。ついてたのよ」

確実に赤くなってるであろう顔に困惑の表情をうかべ、聞くと彼女も真っ赤になっていた。あぁ、かわいいなぁ。

ただ、あまりにもむず痒い空間に顔がみれず机に顔をぶつける。

「……すごい音がしたわね」

「…無理です。」

頭の上から楽しそうな笑い声が聞こえる。策士か!

「んふふ、あなたの余裕が崩れてよかったわ!」

「はしゃいでらっしゃる…」

「さきに仕掛けてきたのはあなたでしょ?」

「おっしゃる通りで…」

学生のような甘酸っぱい気持ちが心に広がる。

ただ、私たちはいい年齢なのだ。

「いま、ものすごく苦いコーヒーが飲みたい…」

「甘いカフェオレじゃなくて?」

「…むり、いくら甘党でもこの甘い空気でノックアウトされた…」

そう告げると、先ほどよりも楽しそうな笑い声が耳に届いた。

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