第6話 薄っぺらいって言いたがるヤツ
薄っぺらい人間について考えるきっかけを与えてくれた平坂先生の講義から1週間が過ぎて、再び平坂先生の講義を受ける日がやってきた。
先生はまた、しょーもないことを言うのだろうなと思って待ち構えていたら、急きょ休講になった。先生は二日酔いで体調が悪いらしい。本当にしょうもないな! と思いつつも、少しがっかりしている自分もいた。あの鼻につく作ったような喋り方も、人を見下したように口元を歪める癖も、毎日会っていたら不快感でストレスがたまりそうだが、週1ぐらいなら見たいなと思い始めていたのに。それに、平坂先生は何だかんだいっても人を惹き付ける話が得意なのだ。腐っても作家だなと上から目線で評価する私だった。自分のことを棚にあげてよく言うものだ。
心理学の教授から聞いたのだけれど、自分のことを棚に上げるというのは、実は健全なことであるらしい。自分には人のことを批判する資格はあるのか? なんていちいち気にするほうが病的らしい。そうだろうか?
私の親戚に、ちょっと性格の悪い日名子ちゃんという子がいる。
彼女は、友人が車の免許の筆記試験に落ちたことを馬鹿にして笑っていた。
「あんな簡単な試験に落ちる人ってよほどの馬鹿なんだよ」と笑う彼女であったが、しかし、日名子ちゃん自身も筆記試験で落ちていたのだった。よく自分のことを棚に上げて笑えるものだと逆に感心したものだ。彼女はおそろしく自己肯定感が高いので、批判が自分自身に向かないのだろう。
日名子ちゃんは、心理学の教授から見たら健全な精神の持ち主なのかもしれない。
しかし、日名子ちゃんが他人を嘲笑う行為は薄っぺらいなと私は感じた。
では、上から目線で平坂先生をジャッジした私はどうだろうか。
私は、薄っぺらいと思う。
他人をよく知りもしないでジャッジする行為は薄っぺらい。健全であっても薄っぺらい。自分を棚に上げて批判するのは薄っぺらいのだ。だが、薄っぺらいのは行為であって人格そのもののことではない。
薄っぺらいってのは行為に対して言う言葉なのだ。そう考えたらしっくりきた。それなのに人間性に対して薄っぺらいという言葉を使うから、私は違和感を持ったのだ。なぜなら、人は誰でも薄っぺらい面と深みのある面をあわせ持つはずだからだ。
人の奥行きというのは、見方によって変わる。
だから、ある人を薄っぺらいと言う人もいれば、深い人だと言う人もいるのだ。
遊びまくって中退するような人を深みがあると言う平坂先生のような人もいれば、薄っぺらいと言う中国人の奧さんもいたように。
この1週間、薄っぺらい人間とは何か、深みのある人間とは何かずっと考えて、いろんな人から話を聞いてみて、私が思ったのは、ジャッジする人たちは、相手の一面しか見ていないということだ。ネガティブな一面だけ取り上げて薄っぺらいと決めつけているのに過ぎない。人間の深部まで見抜けていないだけである。
ああ、しょうもないなと思った。
結局、薄っぺらいって言う人が薄っぺらいんだからな~というだけのことであった。
馬鹿って言うやつが馬鹿なんだからな~みたいな話だった。
心理学のゼミのとき、先生にこの1週間私が悩んだことを打ち明けると、
「それは良い経験をしましたね」と言われた。
そうだろうか。しょうもないことを考えた無駄な1週間だったように思うのだが。
「若いうちに、人生について考えておくのは良いことですよ。年を取ってからでは遅いこともありますからね」
意味深なことを言われた。
「人生について考えることに意味があると気づかないまま中年期まで行ってしまい、壁にぶつかってしまって立ち直れなくなることもあるんですよ。中年期危機って習ったでしょう」
習ったような……気がする……が覚えていないので、曖昧に頷いておいた。
「ところで、レポートは順調ですか。提出は来週ですよ」
どきっ。そういえば忘れていた、とは言えないので、
「ぼちぼちです……」と返事をしておいた。先生は「ははは」と笑った。だけど目は笑っていなかった。さぼりを見抜かれている。怖い。しばらく勉強に専念しよう。
それから大学を卒業して、就職して、今に至るが、薄っぺらい人間とは何か、私はいまだにわからないままである。
仕事をしていても「あいつは薄っぺらい」という陰口は結構聞く。嫌いな相手や理解できない人にはとりあえず薄っぺらいって言っとけ、みたいな感じのような気がする。
薄っぺらいって何だよ。
みんなそれぞれの人生があって、それぞれの人生に浅深のグラデーションがある。それがおまえたちには見えていないだけだ。
<終わり>
薄っぺらい人間って何だ ゴオルド @hasupalen
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