そして、数日後

 ロサンゼルスの街角。

 数日後の昼。

 

 レリエルは買い物袋をひとつ抱えて、家路を急いでいた。

 買い物という行動ははじめてだったが、レイの書いたメモの通りにやったので、スムーズにうまくやれた、と自己評価していた。

 無論、実際は、そうでもなかったのだが。


 歩道を歩いていると、すいません、と声をかけられた。

 横を見る。紺色のスーツを着た老人が立っていた。灰色の豊かな髪を優雅にセットして、口髭をたくわえている。

「この美術館へは、どう行けばよろしいでしょうか……?」

 低く落ち着いた声で、そう問われた。

 このあたりを歩いたのは数回、住むようになってまだ数日である。レリエルは困りつつもメモにある美術館の名前を見た。

 あぁ、と声を上げた。

 それは以前、レイと一緒に常設展を観に行った美術館だった。天使の絵があると言われ、興味を引かれたのだ。

「ここでしたら知ってます。この道を戻って、真っ直ぐ下って、ええっと、大通りに出ると──」

 レリエルは老人に道順を教えた。先ほどの買い物とは違い、ほぼ完璧なガイドだった。

「いやぁ、助かりました。ありがとうございました……」

 老人は深く会釈をする。いいえ、とレリエルは言った。

 それじゃあ、お気をつけて、と老人の脇を過ぎる。

 後ろから「ああ、それから」と老人の声がした。




「息子の世話を、もうしばらくの間、よろしく」




 レリエルは腕から買い物袋をとり落とした。

 振り返った。

 誰もいなかった。




 ただ、あの独特の、邪悪な臭いだけがつん、と、その場に残っていた。


 

 

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Kindful Devil/Evil Angel(s) ドント in カクヨム @dontbetrue-kkym

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