おまけ
王宮の食堂に重要人物が大集合している件について
王宮 食堂
どうも、ティータ・ネレインアンです。
独身二十代。
花も恥じらう乙女です。
誰だそいつという人に、自己紹介を。
私には特に目立った才能はないですが、特務隊の一人として隊長のリートさんにこき使われながら、ひいひい言いつつ日々雑務……いえ立派な任務をこなしながら生活しています。
つい先日まで、私がいる国では歴史的なクーデターが起こって王様が二度程変わったり、歴史的な大罪人が暴れて世界がしっちゃかめっちゃかになりかけたので、普通の会社員よりはちょっと忙しい日々を送ってはいますけどね。
ご紹介の通りなんの能力もないので、才能のある私の上司……リート隊長の無茶ぶりに付き合わされるたびに死にかけてます。
『ティータは、ぜんぜん……普通じゃ……ないと思う』
ちょっと視界の隅で半透明になっている少女が、何か行っていますが無視です。無言です。
大丈夫、見えちゃいけないものが見えたりする特技なんて、私は持ってませんよ。
『……いい加減、認めたらいいのに』
はいはい、聞こえない聞こえない。
それで、任務で溜まり気味なストレスは、一日の終わりに王宮の食堂でゆっくりご飯を味わう事で解消するのが日課です。
たかが食堂、されど食堂。
甘く見る事なかれ。
国の中心部だけあって、料理長の腕は良いし、食材も良いものばかりなので、とても助かっています。
食い気のある女性ってどうなの? 太るよ?
そうおっしゃられる方もいるかしれませね。
しかし、ノープログレム。
人の恋路を応援してばかりなので、出会いが無い問題については、もう諦めかけてますし。
見た目的な問題も、無問題。油断して食べすぎたくらいで太るような労働環境じゃありませんから。
だから私は思う存分、食堂のご飯に毎日がっついていてます。
『それって、どう……かと思う』
でも、問題発生です。
私が食堂に行くのは、大抵は通常の営業時間から外れた頃なので、人がいないはずなんですけど……
今日はなぜか多いようです。
「困ったわね。ツェルトは何か良い案ある?」
「うーん、何にも思い浮かばないな。あ、ステラのこと抱きしめたら、何か思い浮かぶかも!」
「そういうの良いから、真面目に考えてちょうだい」
「俺、真面目に言ってるんだけどな」
最近友達になった料理人みならない兼(勇者返上した)前代勇者のレーシャ(ステラ)さんと、その彼氏の、なぜか今代勇者になっているツェルトさん……。
「にゃーん、ごろごろごろ」
「うーん、ニオもこういうのちょっと分かんないかな。専門の人に聞いてみるしかないよねー」
後は、中庭に住みついた大食らいな猫と、その猫をなでる王様の護衛の女性ニオさん。
そして……。
「あ、ニオ。ここにいたんですか。ちょうど先程、件の人と出会ったので、案内しましたよ」
この国の王様が扉を開けてさっと入室。
優しげで大人しめで儚げな美男子がやってきました。
……なぜか、重要人物が大集合しちゃっています。
ここ、王宮の食堂ですよね。
下っ端兵士達がご飯食べるとこですよね。
オカシイナー。
しかも 食堂にやって来たのは王様だけではありません。
「あら、皆もう揃ってるのね。時間に気を配るのって難しいわ。こういうのは依頼主である私が一番に来るべきだったのだけれど……」
勇者の剣を何代にもわたって管理し続けているらしい、剣守の一族のマイペースな女性シェリカさんや、
「くそが、人が寝てる時に叩き起こしやがって」
クーデターの時に国ひっくり返す側についてた悪っぽい男性の、レイダスさんまでいます。
このところちょくちょくレーシャさんに紹介されるようになった新規の顔が多いのもあれですけど、今日の食堂、本当にどうしたんですか?
集まった人達は、何やら困りごとがあるらしく、顔を合わせながらあれこれ意見を出しているようです。
こうなったら私は、できるだけ目立たないように、息を殺すしかないですね。
だって、あそこモブがいて良い空気ではないですし。
私は、出してもらった食事を精一杯の速度で口の中に放り込んでいきます。
食堂で過ごす時間は、唯一のリラックスタイムだったのに、味がほとんどしません。
『気にすること……ないと思う、けど。でも……その気持ち、少しだけ分かる……かも。凄い人と一緒にいるのは……きゅうくつ』
喉に詰まって慌てて水を飲んでいると、そんなフォローが聞こえてきます。
半透明の女の子、やめて。そんな目で見てこないでください。
幽霊に慰められると、私なんだかとてつもなく不幸な人に思えてくるじゃないですか。
離れた所では、レーシャさん達が今も頭を悩ませているようです。
「早く問題を解決してしまいたいんだけど、何か抜け道とかないかしら……」
ああ、耳を塞ぎたいのに重要人物達の会話が聞こえてくる。
何だかとても重要そうな問題が起こっているのに、壁にぶつかっているようです。
普通、一般人の前でそういう話はしないでしょう。
何考えてるんですか、危機感発動させておいてください。
いや、逆に私の存在が認識されないほど空気なのでは……?
駄目だ。考えてたらますます落ち込んできた。
一応、私にも言えることはあるんですよ?
モブ属性してますけど、こう見えて私は転生者でして、この世界が乙女ゲーム「勇者に恋する乙女」のストーリーに酷似した世界観だという事は把握しているんです。だから、彼女達が困っている事の解決策は言えるんですよ。
レーシャさん達が探している国宝の探し物は、ほぼ観光名所化している数百年前の剣守の住居、旧クロスソード家の建造物の……離れの屋敷の地下にありますよ、という具合に。
けれど、ですけれど。
そんな事言ったら、今より忙しくなっちゃうじゃないですか。
ただでさえ、今もリート隊長にこき使われて大変な目に遭っているのに。
でもレーシャさんには世話になっている事もあるし、なにより友人だし。
そうやってうんうん頭を悩ませていると、また何やら人が増えたような気配です。
「姉様、にこんな所にいらっしゃったんですか? 探しましたよ」
「お嬢様、これは? どうなされたのですか?」
「あらあら、私達の知らない間に食堂が会議室にでもなったのでしょうか」
レーシャさんの弟さんであるヨシュア君に、レーシャさんのお屋敷で働いている使用人さん達のレットさんやアンヌさんまで!?
世間話の隅にちょこっと単語として紛れるくらいの関係の人まで来てしまった。
そして……。
「ステラ、ツェルト。私の力が必要だと聞いたのですが……」
大貴族のカルネ・コルレイトさんもいるではないですか。
どうしたんですか、そんなに示し合わせたみたいな偶然の大集合。
あれですか、新手のイジメですか。
モブイジメですか。
おまえの居場所ねーから、ですか。
机校舎から投げて、どーんですか。
やめて、泣いちゃいますよ。
そんなに有名人に集まられると、同じ空気を吸ってる私の立場が、いっせーのでなくなっちゃいますよ。
他にも優秀な騎士であるアリアさんとかクレウスさんとか、曰くつきの剣を持ってるツヴァンさんとかがやってきて、大人数を収納可能な食堂の解放感が台無しに!
見えない有名人オーラみたいなのが、あの一団から放たれてるんですけど。
モブの目潰す気!?
私は、使い終えたフォークをそっとおろした。
そして、できるだけ小さな声で、傍らにたたずむ幽霊に話しかけた。
「私何も聞かなかった事にして帰って良いですか?」
『さすがに……ない。だめ』
「ですよねー」
私が話しかける幽霊さんは、剣守の一族の一人である少女。エルルカ・クロスソード。
レーシャさんが最近抜けた依頼で関わったらしい幽霊屋敷の、元住人だった人だ。
そのエルルカちゃんはなぜだか私にくっついている。
それは、彼女の姉であるシェリカ・クロスソードの困りごとを解決する為だった。
離れた所で、ステラさん達が話し合っている内容は、国宝級になる……剣守の証の行方について。
私もエルルカちゃんもその行方を知っている。
せめて相手がレーシャさん一人だったら、いくらでも話し様があったのに。
彼女を手助けしてあげたいという気持ちは当然ある。
あるのだが……。
一般人でしかない自分にあの空気の中に入って行けと言うのは、ちょっと難易度高すぎですよ。
「レーシャさんから、せめて声をかけてくれないですか……ないですかそうですか」
とにかく、彼等が集まっているのは入り口までの進路上にある席だ。
どのみち、あそこを通らないと出られないのだから、腹をくくるしかないだろう。
ちなみに問題自体は数日かけて解決しました。
ええ、ですけど、そのあいだ有名人達にあれこれ挟まれてた私のメンタルは、心労でブレイク寸前でしたし、途中で主人公にしか解決できないような超絶戦闘シーンに巻き込まれて一回気を失いましたが。
食堂に悪役令嬢がいる! ~乙女ゲームの世界にモブとして転生したら、悪役キャラが英雄になっててなぜか王宮の食堂で働いてる現実があった~ 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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