OVER CYC&WAR HEAD:ヒーローの仕事

こたろうくん

OVER PYC&WAR HEAD

 気流を操り竜巻を作り出すことが出来るニューヒューマンを人々はザ・ハリケーンと呼んで恐れたが、なに、所詮作り出せるのは竜巻である。

 彼が襲ったニューヨークにはカテゴリー5のハリケーンすらねじ伏せるスーパーヒーローがいる――オーバーサイクだ。

 魔女と呼ばれる、ニューヒューマンとは別の“力持つもの”である彼女は翼も無しに空を飛び、目からは分厚い鉄板を焼き切る破壊光線を放ち、空間を飛び越え隕石をも受け止める……これらは世間がよくそう喧伝している事実ではあるのだが、原理を説明すれば長い。まぁ、ようは魔法だ。

 そんな彼女をたかだか竜巻風情が束になったところで止めることは出来ない。彼女と正面切ってぶつかることが出来るのは、現在地球上で最強と目される異星人のジャスティス・スターライトや他数名だけであろう。


「あの人間洗濯機めぇ、降らすなら雨とか雷くらいにしときなさいよっ!」


 最強に比類するオーバーサイクがぶー垂れるのは、暴れたザ・ハリケーンがもたらした“二次被害”でだ。ザ・ハリケーン自体はオーバーサイクが竜巻に突貫し一瞬で片が付いた。

 問題はザ・ハリケーンの竜巻が巻き上げたものであり、何故かわざわざ海岸から攻めてきた彼の竜巻は数多くの海の幸を大都会に雨と降らせたのである。

 数多の海鮮物の中でも今回問題だったのはイルカであった。不幸なイルカは竜巻に巻き込まれ意図せぬ上京を強いられた挙げ句、まんまと迷子になってしまっていた。地上では暮らせないどころか移動もままならないのだから当然である。死ななかったどころか無傷で済んだのは不幸中の幸いと言う他ない。

 黒いコスチュームを纏う、白髪はくはつなびく少女オーバーサイクは市民の声に応え、不幸なイルカを海に帰すべく魔法で作った“見えざる手”でイルカを懸下し運ぶ途中だった。だが派手好きな少女はこのような地味な活動を好ましく思わず、何故自分がと原因のザ・ハリケーンへこうして恨み節を吐いている次第なのだ。


「こら、文句を言うんじゃない。みんなが見ているんだぞ」


 不機嫌なオーバーサイクを叱る声は地上からであった。彼女の魔力に侵された真紅の瞳が声のした方角を見る。そこには人々を引き連れながら歩く、二メートル以上はある銀色の偉丈夫がいた。流体金属から成るアンドロイドまたはゴーレムであるオーバーサイクの相棒、ウォーヘッドだ。

 オーバーサイクが今よりも幼かった頃、地球に飛来した隕石にカモフラージュされた外宇宙の存在が送り込んだコンピュータシステムを、そうとは知らずにゴーレムとして再構築して生まれた存在である彼は現場では彼女の相棒として、私生活では保護者として活動している。

 二人はアストラルリンクという精神的な繋がりを構築していて、これにより言葉を紡がずとも想いを伝え合うことが可能であった。ウォーヘッドに叱られたことで、オーバーサイクはぷくりと頬を膨らませる。


「だって! 別にこんなのわたしじゃなくても、なんならパパが持って運んだって一緒じゃない。わたしはオーバーサイクであって“ディープ”じゃないんだからねっ」

「そう言うな、みんなを安心させるには分かり易い方が良い。見ろ、イルカさんも喜んで……って、“ディープ”だと?」

「あっ、やっべ……」

「ミュー! お前、またあのドラマ見たのか? まだ十八になってないだろ! こらっ、待ちなさい! ミュール!」


 びゅんと加速するオーバーサイクを、まだ言いたいことがあるとウォーヘッドが追い掛けて走り出す。

 ビーチまではあっと言う間だ。運ばれるシロイルカはひれと尻尾を振り乱してしばしの飛行を鳥になった気分で堪能したのであった。


「早く大人になりたーいっ」



――END

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