10の担当

バブみ道日丿宮組

お題:10の人間 制限時間:15分


10の担当

 担当者と書けば、なにやら都合のいい職についた人間のように感じられるが、実際のところにおいてはそうではない。

 誰しもがやりたくもない仕事を天職のようにこなしてくのだ。それが担当者と呼ばれる職種についた人間のやることだ。

「あの人、また失敗だって」

 世間話というか、噂話は自然と耳に入る。

 とくに仲が良いというわけではないのに、同業者は口を挟んでくる。

「また死なせちゃったんだって」

「……そうですか」

 私たちが担当してるのは、赤ん坊を育てるということ。それ自体は他のところでも変わらないことといえるだろう。

 ただ私たちは遠隔操作で赤ん坊に接してる。いわばロボットアームを使って、ご飯を食べさせたり、着替えさせたり、おむつを変えたりしてる。

 お互いの顔を見合うということはない。

 それぞれが担当してる赤ん坊が歩くまでの期間を一緒に過ごす。歩いてからは他の担当者が行う。それを10回繰り返し、大人になる。

 それが私たち、最近の人間たちの生活だ。

 親と呼ばれる存在はただ一人であり、神様のようでもある。そんな存在はすぐ近くにはいない。モニター越しの放送で私たちに声をかけてくれるだけで、直接手を回してくれるということはない。

 それでも、その神様の子であることには変わらない。

 私たちが産まれるために使われるDNAはその神様のものだ。

 そんなものだから、あまり寿命というのが長くない。近親交配を繰り返してるのだからアタリマエのこと。だが、それがわかっていても私たちにはどうすることもできない。

 関わりあえる人間は一握りの人で、誰かと添い遂げるということもなく、遺伝子だけが情報として摂取されてく。知らない間に自分の子供ができて、自分で育ててる。そういうこともおそらくあったのだろう。

 ただ、生存率はかなり低い。

 こうして赤ん坊を対応してても半分以上は死んでしまう。あと失敗して殺してしまうこともある。

 私たちはなんのために産まれ、死んでくのだろうか。

「もう少しで昼休みね」

「そうですね」

 答えはわからない。

 おそらくきっと……神様にしか本当のことはわからないであろう。

 私がわたしで、あたしが僕、そして俺がおいら。

 あなたは姉で、弟で、そして兄であり、妹でもある。

 じゃぁ私はなんなのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

10の担当 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る