番外編その3 リーンとハルクのその後 俯瞰視点(2)

「リーンさんと過ごした時間が、忘れられませんでした。よろしければ、今後も会っていただけ――え?」「ハルクさんとの時間を、忘れる事ができませんでした。もしよろしければ、これからもお会いしたいと――え?」


 2人が別れた日から、9日後。待ち合わせ場所であるオープンカフェを訪れていたハルクとリーンは、口をパクパクさせながら目を瞬かせていました。


《あの時のお礼をしたい》


 どちらも手紙には本来の目的を書いておらず、おまけにどちらも、相手の想いに気付いていませんでした。そのため相手からの告白を一切予想しておらず、


「「断られてしまったら…………」」


 どちらもそんな大量の不安があり、昨夜は一睡もできていませんでした。

 しかしふたを開けてみれば、同じことを言い出した。それがあまりに予想外だったため、こんな反応となってしまっていたのです。


「わたしはあの日の相談や、励ましてくださった時のお顔と温かさを忘れられず……。実はお別れをした日からずっと、そうしたいと願っておりました……」

「わたくしも、です。ルーエン様を想われるお姿、元気づけてくださった時の優しさがずっと印象に残っていて……。ずっと、そういった気持ちがあったんです……」


 2人はまだ呆然としながら内心を伝え、そうしているとようやく、今の状況を理解しました――両想いだったと、理解しました。そのためリーンとハルクの頬は瞬く間に赤く染まり、全身に喜びが溢れました。


「あっ、ありがとうございます……っ。リーンさん、改めてよろしくお願い致します……っ」

「はい……っ。こちらこそありがとうございます……っ。ハルクさん、今後ともよろしくお願い致します……っ」


 座っていた2人は揃って立ち上がり、ペコペコと何度も頭を下げます。そしてそうしていたハルクとリーンは顔を見合わせ、


「わたし達、似ていますね」「わたくし達って、似ていますね」


 同じように微苦笑を浮かべ、また一致したため、今度はプッと噴き出しました。


「こんなにも揃うだなんて。わたし達は、とっても、似ているようですね」

「前々からそう感じてはいましたが、確信に変わりました。全然意識していないのに、おんなじになるなんて。それこそ、運命なのかもしれませんね」

「そうですね。運命の相手は、本当に存在しているのかもしれませんね」


 運命――。それは2人にとっては、苦い思い出のある言葉。けれどそれ以外に相応しいものが見つからず使用し、やがてハルクとリーンはそれを確信します。



「ハルクさん。やっぱり、お会いできましたね」

「ええ、リーンさん。今日は、貴方に偶然会える気がしていました」



「リーンさん、どうぞ。これを探していたのですよね?」

「はい、そうなんです。持って来てくださり、ありがとうございます」



 恋人になったら更に一致が増え、夫婦になる頃にはすっかり相手のことが分かるようになっていました。

 そんな2人の生活が、楽しくないはずはありません。

 ハルクとリーン。かつて従者と侍女だった2人は主と違って運命の相手を見つけ、生涯その相手と幸せに暮らしたのでした――。




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婚約者と妹が運命的な恋をしたそうなので、お望み通り2人で過ごせるように別れることにしました 柚木ゆず @yuzukiyuzu

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