番外編その4 リーンとハルクのその後 俯瞰視点(1)

「リーンさん。短い間でしたが、お世話になりました」

「ハルクさん。こちらこそ、お世話になりました」


 オスカーとメリッサが大ゲンカをして、関係解消を宣言した翌朝。|引き払いの作業《メリッサの私物の回収が終わり、2人はルーエン邸のエントランスで向かい合っていました。

 この邸宅からすでにメリッサは去っているため、今後リーンが訪れることはありません。そのためハルクとリーンは、別れと感謝の言葉を伝えていたのです。


「一緒に計画を練ったり、休憩中にコーヒーを淹れてくださったり。あの19日の間に、リーンさんには何度も助けられました。本当に、ありがとうございました」

「どういたしまして。ですがハルクさん、わたくしも何度も助けられているんですよ? 計画を練ったり、休憩中にお菓子を渡してくださったり。あのおかげで元気が出ました。こちらこそ、ありがとうございました」


 2人は交互に深く頭を下げ、くすりと微笑み合います。そうしてこれまでの苦楽を振り返り、そうしていたら――。ハルクとリーンの間には、とある気持ちが、生まれます。


((………………))

((………………))


 そのため2人は、その感情を言葉にしようとしますが――


 リーンは、メリッサの件で忙しい。

 ハルクは、オスカーの件で忙しい。


 ――そういった現状と主への配慮を考慮し、それを口にすることはありませんでした。

 そうしてリーンはノエマイン家の関係者と共にルーエン邸をあとにし、今一番伝えたいことを伝えなかった2人。ですが、


「なんでぇ……っ。なんであたしがこうなっちゃうのぉ……っ! パパとママのばかぁぁぁあぁああああああああああああああああ!!」


「調子に、乗っておりました……!! 今後は二度と、こんな真似は致しませんっ! 致しませんので……っ!! お許しくださいませ……っ!!」


 仕えていたメリッサとオスカーがあのようなことになり、従者と侍女ではなくなったこと――ノエマイン邸とルーエン邸で、時間に余裕のある別の職に就いたこと。


「リーン君、娘のことは本当に済まなかった。……メリッサに気を遣ってくれる必要は、もうないんだよ。どうか、君がやりたいように動いてください」


「ハルク、息子の世話を任せて申し訳なかった。これからはどうか、オスカーを気にせず過ごして欲しい。せめてものお詫びに、君を応援させてください」


 それぞれの当主から改めて謝罪を受け、背中を押されたこと。


「……リーンさんと、もっと一緒の時間を過ごしたい……」


「……ハルクさんと……。もっと一緒にお喋りなどしたい……」


 そして何より、お互いへの好意が膨らんでいったこと。

 それらによって互いに手紙を書いて待ち合わせを行い、あの日告げられなかった言葉を伝えるようにしたのでした。


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