どうかこの国に魔法少女がありふれますように
「
「うん」
知っていた、本で見たことがあるから。
わたしはララちゃんに連れされて教会から抜け出した。今は森の中に手をつないで散歩している。森で散歩するのは初めてだった、メイドもついていない。
「言うこと聞かないと、魔族に食べられるってパパが言ってた。大丈夫?」
「大丈夫、だいじょーぶ。わたしはいつもここで薬草採りに来るし、この辺で魔族がいるわけないですよ」
「そう」
しばらく森で散歩すると突然、頭の上に大人より大きい蜘蛛が降りてわたしを捕まえようと、八本の黒い足が開いた。
なにこれ……? 蜘蛛ってこんなに大きいだったっけ?
「きゃっ!」
ララちゃんは悲鳴を上げながら、飛ぶ虫を追い払うように蜘蛛をぶっ飛ばした。爆風が起こし、わたしの顔も吹っ飛んだ。
ララちゃんの手をつないでいなかったら、わたしは後ろ向きに倒れているに違いない。
蜘蛛がくちゃくちゃになった、大木がバキバキで倒れて、地鳴りが森に響き渡る、鳥たちは煩わしいほど鳴き始めた。
森は静かになった。
「……あはは、びっくりしちゃった」
「ララちゃんは人間なの?」
「なにを言ってるですか! 人間ですよ! もー」
つないでいるララちゃんの手が震えている。
虫が苦手だったのか? 確かに気持ち悪いけど、震えるほど嫌いだったのか。
「あの、
ララちゃんが目を合わせてくれない、なんでだろう?
散歩はもう飽きた、さっきの蜘蛛のせいで、気分が冷めた。
「帰ろう」
「え……? あっ……うん、そうね」
教会に帰ったあと、二人でみんなに怒られた。
※
「
童顔に大きな青い目、サラサラな長い金髪、ララちゃんと似たような服を着ている。この二人、姉妹のように見えるほど、ララちゃんが若い。
そういえば、昔はいろいろがあって、わたしはララちゃんが人間なのかを疑っていた。今思えば、あれは普通だった、この魔力が溢れたこの世界に、おかしいのは魔法が使えない自分だった……いいや、ララちゃんの魔法量は騎士たちよりはるかに上回る。やばっり、ララちゃんは普通じゃない。
アイリスはララちゃんから逃げるように、わたしの方に近づく。
「あら」
「はい。あの、
確かにかわいいだけど、大人の男が魔法少女のコスプレを想像してみてほしい、ただの変態じゃないか……いいや、ときとき自分のことを男だと思ったが、今のわたしは女の子だった。
「そう、着てみたい?」
「ええ! 機会があれば、着てみたいなぁ」
わたしは魔法少女のコスプレは小学生まで許されると思う、アイリスなら問題なくセーフ。
「ふふっ、そういえば最近、似てるような服を着てる人たちがたまに見かけるようになったのよ」
「うん! 異世界の言葉だと、魔法少女って言うらしいの……それなのに、魔法使えないのはなぜかしら……?」
この世界にプレイヤーはいるのか? あの世界の文化をここまで広がるのか。わたしを堂々と魔法少女の姿にいられるために、ぜひこの世界のはやりになってもらえたい。
魔法少女姿のプレイヤーたちは魔法使えないのか、この魔力溢れる世界に……。
「ねぇ、異世界ってなに?」
「あっ、
また君か……。ずっとわたしの仲間としていてくれるだといいだけど……。
「その翌日、この大陸に異界から迷う人が次から次へと現れ始めたんです」
大勢素性不明の人が湧いてくると、治安が一気に悪くなるでしょうね。
「大変そうだね」
「ええ、一時はどうなることかと……ふふ、そういえば、騎士から聞いたよ、
「あ、あれは……」
いいや、なにをもたもたするんだ? 恥ずかしがってる? おかしい、こういうのは初めてだ。
わたしは世界樹に公認された魔法少女、子供のごっこ遊びじゃない。こういうときは堂々とするといい。
「そうだとも……アイリスは魔法少女が好き?」
女の子なら大体魔法少女が好きだよね?
「ええ!
その好きなものを語れるような純粋なキラキラしている目から、アイリスは魔法少女のことが大好きだと分かった。言えない、あの世界に魔法少女がいないなんて言えない。
「戦乙女と呼ばれた
「だっ大丈夫、気にしないで」
やばっり無理。この気持ちは……? コーヒーで興奮状態になったとき気にしていないけど、今はこの姿が見られて、どうしても慣れなくて、恥ずかしい。
今の自分はおかしい、昔のわたしなら周りの目なんて気にしていないのに、
ん? 戦乙女……?
「どうぞ~」
相変わらず締まらない顔しているピンク髪のメイドは、水を持ってくれた。
「ありがとう」
コップの水を一気に呑込む。
「
「平気。体は特に不調はない、眠いだけ」
「眠いの? それならちゃんと休んだ方がいいよ。もうそろそろ町に着くですし、ゆっくり休んでって、邪魔してごめんね。ほら、アイリス」
「うん、無理しないでね、今度はお姉さまの話を聞かせてくださいな、おやすみなさい、
「おやすみなさい、
彼女たちは部屋を出ていた、残ったのはピンク色髪のメイド。
「
「朝ご飯食べすぎたから、食欲がない」
「はーい、食べたいとき、呼んでね。後ろを向いて、髪を結んであげるから~」
髪が長いから、寝るとき意外と邪魔だった。
「うん」
わたしは背中を向けたあと、二つのリボンが外しされた。
もう二十年過ぎたのに、外見は昔のまま。背長はわたしそうなに変わらない、魔族はみんな年を取っても、若いのままでいるだろうか……いいなぁ。わたし、寿命が十年で限界だというのに。
「終わったのですよ~」
「うん、ありがとう」
二つの大きなお団子が出来上がった。
「ねぇ、魔族ってこの国にいるだけで大変じゃない?」
ティアお母さまによると、人族の国には魔族への差別がひどいらしい、わたしたちの国も例外じゃないはず。そもそも人族の国に魔族がいるのが珍しい。
「なにか~?」
「いや、なんでもない」
「……
「そう」
わたしはベッドにダイブして、寝ようとしたが……。
「なにしてる?」
ピンク色髪のメイドはぼーっとしている顔で、わたしを見つめている。
「
「そう」
このメイド、暇だったのか? なにか忘れた気がするけど、まぁ、いいか。
静かになった部屋に、夢の旅はまた始まった。
退魔師がVRMMOで魔法王女のNPCになった エデンの道のり @edennomichinori
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