第37話 エピローグ(完結)


 ――後日。

 改めて大和の国の王となったアギルの元に朝早くから行き、『帝王の都』まで送れと言い放ち、今から行くから待っていろとアリスへの書簡を無理矢理書かせ送らせた刹那と育枝は大和の国とは違い豪華な謁見の間へと招待されていた。いやこの場合招待させてあげたと言った方がしっくりくるかもしれない。


 しばらく二人で立ち待っていると、玉座の上に見慣れない白い魔法陣が出現しその中から羽が生えた金髪美女が一人ゆっくりと降りてきては座る。


「久しぶりね。ここに来てくれて嬉しく思うわ」


 アリスは疲れた顔をしている。

 やはりどこの国のトップもよく働く王は大変なのだとつい思ってしまう。


「寝てないのか?」


「見ての通りよ」


「せっかく綺麗な顔しているのにクマで台無しのアリス女王陛下と言った所か」


「それ……褒めてないわね。むしろ私を小馬鹿にしてる」


「わかる?」


 騙された事を根に持っている刹那の悪意ある笑みに苦笑いのアリス。


「えぇ。それで今日は私に何の用かしら?」


 大きな欠伸を手で隠し、目からは涙を零すアリス。


「約束は守ってもらうぜ。勝つ相手には勝ったし、国を救うと言う約束も果たした。ただしお前が全て望む形かは置いといてだが」


 相手の反応をしっかりと確認するように刹那と育枝の瞳にはアリスの姿がハッキリと映っている。アギルを倒して数日アリスが自分達の前に姿を現さない理由。もしアリスの目的が本当の意味で達成されたなら今頃上機嫌だろうし、徹夜までして何かをするほど慌てる理由がないはず。だけどそうじゃないと言う事は――。


「なにが言いたいのかしら?」


 この世界においてペンタゴンがもっとも恐れている存在は最弱でありながら最恐の存在――人間。

 人は敗北から学び、強くなれる存在。

 そこに自分達の元国王候補者が力を貸した。

 つまり、一度は沈み力を失った人間が遅かれ早かれ再び力を持つ可能性が出てきた。

 その事実が他国、特に神の国々は脅威に思ったのだろう。

 そして更に別の他国はこれが『帝王の都』による作戦なのではないかと警戒し牽制してきた。結果、誰もが自由に動く事ができなくなった。

 そこで利用されたのが刹那と育枝だったわけだが――。


「勘のいい人間は私嫌いよ?」


「つまり認めるってこと?」


「なにを?」


「真実を知った他国の対応に今忙しくて、更に悪化したこの状況をどう対処しようか考えているって」


 一国の王が寝不足になってまで動く案件や人物となると大抵すぐに予想がつく。

 後はそこにブラフを混ぜ、相手の反応を見ながら、あたかも全て察しがついているように振舞えば相手が勝手に自滅してくれるってわけだ。それともう一つの予測がたつ。それはどの世界においても共通な事でアギルも力を入れていた分野――研究。


「……そうよ。おかげで貴方たちを元いた世界に戻すのを忘れるぐらいに忙しいのよ」


「だそうだ、妹よ」


「だね、お兄ちゃん♪」


 これにはしてやったりの顔で笑ってそう言う兄妹に、イラっとするアリス。


「全く私の作戦を見破っておきながら最後まで動いてくれたのは、私に復讐をする為だったなんて、『ダイスの神』は私よりたちが悪いのね」


 とんだ誤算だった。

 こんな事なら、ただ強くて機転が回ると言う理由だけで二人を連れて来ない方が良かったと思っているアリスに刹那が言う。


「その癖直した方がいいぜ」


「……え?」


「自分達の保身(国)と利益(結果)だけを考える癖。アイツはお前達から見たら今は敵かもしれない。だけどアイツはお前達に敵意はあるのか? ただ誰かを救いたいって種族を超えてそう思っているから頑張っているんだろ? だったら少なからず力貸してやったらどうなんだ? それにお前の個人的な考えと利害が一致すると思うぞ」


「――そんなこと、ありえない!」


「本当にそうか? 一度は勝負した相手ならわかるはずだ。『ダイスゲーム』を通してアイツが本当に悪い奴だったのかを。少なくとも俺と育枝はゲームを通してわかったけどな」


 そして、なんの躊躇いもなく言い切る刹那。


「俺はお前とも『ダイスゲーム』をした。その結果から一つわかった事がある。お前もアイツと一緒で嘘が下手。……仕方ないから一つだけ教えてやる」


 そう言って、大きなため息を一つ。


「異世界転生後なぜ魔法で俺達を監視しなかった? お前はそう言った事ができるはずだ。現に俺達が別世界にいる時にしているんだからな」


「……で、できるわ」


「それでしなかった理由を考えると、ふとっ思ったんだ。お前にはこの状況よりもっと大事なことがあり、それさえ達成出来れば実はアギルの一件は後でどうにでも出来るのでなかったのかと。その大事な事とは、実証だろ?」


「ん? ……どういう意味かしら?」


「魔法と言う概念の研究。それで俺達のイカサマではどうなるのかと言う実証実験。この世界では魔法とイカサマの概念がどちらもハッキリとしていない。その為、その概念の確立こそが今のお前達ペンタゴンの課題。ただしこの世界の者を実験対象にするとなにかあった時に面倒毎になる可能性が高いことから、お前は今回の一件を丸々利用したんじゃないか?」


「そ、そんなわけないじゃない!」


「動揺するなよ。目は口程に物を言うってことわざを知らないのか? 本当に違うなら目でも否定してみろよ。挙動不審な目ではなく、ハッキリと俺の目を見て否定してみろよ」


 その言葉に落胆し落ち込むアリス。

 そのまま下を俯いたまま、「そうよ。本当に勘がいいのね」と刹那の言葉をとても小さい声で肯定した。その言葉はとても小さかったがハッキリと刹那と育枝の耳には聞こえてきた。


「まぁな。国と民を護る者として魔法研究は欠かすことができない。どこの国よりも早くその概念を確立させて、力を手に入れなければ自国を護る事はできない。お前はこの国の王としてそう思ったのだろう。悪くない考えだと思う。だけどそれこそが誤りだと俺は思ったぜ」


 まるでこの世界の事を全て知っているような口ぶりにアリスは大きく落ち込んでしまった。アリスとアギルの真の狙いに気付いていながらそのことに気付かない振りを続け最後の最後での種明かし。騙し合いや駆け引きにおいて彼の右に出る者はこの世界においていないかもしれない。

 そしてようやく気付く。

 アリスという神様は刹那と育枝をただの人間だと過小評価していたことに。

 彼らは――。

 間違いなく。

 人間の持つ脅威をそのまま具現化し、ペンタゴンで唯一無二の存在。

 五種生命体――神、天使、吸血鬼、エルフ、人間において一番短命でありながらその寿命の短さを感じさせない人間は何よりも儚く美しい花のような存在だと。


「全知全能神が概念を曖昧にしている理由。そこに答えがあるんじゃないか?」


 そう、全知全能神は暴力を嫌い余興を楽しむ性格。

 だから余興の範疇を超えない現象をまとめて魔法と呼ぶようにした。

 そしてこの世界で魔法の定義がしっかりと成されていないわけは、きっと制限を掛けると駆け引きが限られ見る方としてもつまらなくなると考えているのではと。

 故に刹那の意見はこうだ。


 ――駆け引きがある試合においては全て魔法で片付けられているのではないか?


 これが昨日もう一度足を運んだセントラル大図書館の資料室で得た答えである。

 全知全能神に滅ぼされた種族の二つの末路は以下の通りだった。


 一つ。

 絶対に相手に負けない禁忌の魔法を行使。


 一つ。

 駆け引きなく後に禁忌魔法となった洗脳魔法の行使。


 つまりはそうゆう事なのだろう。


 最大のヒントを貰ったアリスは微笑みを零し言う。


「そうかも……しれないわね」


「だろ? お前も俺との勝負中楽しんでいただろ? つまりはそうゆう事。その研究はもう無意味になっちまうが、無駄にはならないよ。失敗した経験を得たってな」


 何処かで聞いたことがあるような言葉にアリスは頷く。

 この二人は私とアギルと大和の国全てを救ってくれた『救世主』なのだと。

 それにもし一緒にこれから先を歩むことが出来るとしたら、私はどこまでも大きく成長できると思う。

 だから――。


「もし良かったら、もっと一緒に入れないかしら?」


 我儘を言ってみた。

 一国の王女としてではなく一人の神として女としてそれを望む。


「私は刹那付きならいいよ♪」


 ここでも意外な反応を見せる育枝に苦笑いの刹那。


「全然構わないわ。今度は友人として対等な立場(ライバル)として私と仲良くして欲しいの。今度は自分の事だけじゃなくて周りの事ももっと見れるようになると約束するから! だからお願い、刹那!」


「…………」


 考える素振りを見せる刹那にもうひと声かけるアリス。


「わ、私は――」


 その言葉に被せるようにして刹那が言う。


「悪い、やっぱりそれは無理だ」


「そ、そうよね……ごめんなさい」


 落ち込むアリス。

 すると横肘で育枝に突かれる刹那。


「な、なに?」


「さよちゃんだけじゃ飽き足らずアリスまで泣かすのは男として最低だと思うよ。女の心は繊細なの」


「…………」


 黙る刹那に目で訴えてくる育枝。

 当然育枝相手に刹那が勝てるわけもなく、頭を掻いて慣れない気遣いをする。


「でもまぁ、なんだ。さよと琢磨もこの世界にはいるしたまに来るぐらいならいいかもな。それに……アリスもいるしな」


 その言葉にパァと顔が明るくなっていくアリス。


「うん! それでいいわ♪ なら毎月招待状送るからこっちに来てね」


「……わかった」


 毎月なのかと思ったがここで余計なことを言えばどうなるかはさっきの展開でわかっているのでここは素直に頷く刹那。


「良かったね、アリス」


「えぇ。育枝もこれからよろしくね」


「いいよー」


「ならこの後二人で女子会しない?」


「オッケー」


 急な展開に嫌予感しかない刹那。


「えっ? 帰れないの俺?」


「ってわけでちょっと二人で話してくるから刹那は待ってて」


「いや、ちょ……それなら俺だけでも先に……」


 それは嫌なのか反応が早かった。


「せ……つ……な……?」


 ウルウルした瞳で顔を覗き込み、袖を指先で掴み可愛さ全開の育枝に刹那が秒で負ける。


「わかった。わかったよ。待ってるから行ってこい。それと自称神様」


「アリス!」


 名前で呼んで欲しいのかすぐに反応を見せたアリス。


「……アリス?」


「なに?」


「夜には俺と育枝を元居た世界に戻せ。いいな?」


「わかったわ。なら育枝とガールズトークしてくるからまた会いましょう」


 そう言って元気よく何処かに行くアリスとその後を追う育枝の背中を見て、


「頼むから遊びに行くなら一人でも行ってくれ、育枝。毎度毎度俺を連れまわすなよな……ったくもぉ世話がやける妹だよ、本当……」


 と一人心の声を呟く刹那。




 それから数時間後。

 城内を探索気分でうろついていた刹那の元に元気いっぱいの育枝が帰ってくる。


「あっ、刹那ー!」


「もう終わったか?」


「うん。ならアリスっちお願い」


 妙な呼び方に違和感を覚えるが、気付かない振りをする刹那。

 すると。


「今度は刹那と二人きりでお話ししたいわ」


 と、可愛い笑みを向けたアリスが言ってきた。

 なので。


「わかった」


 頷きながらそう答えた。

 それから二人は約束通りアリスの魔法で元居た世界へと帰ることに成功した。


 次に二人の意識が戻った時には、見慣れた景色が広がっていた。

 部屋は十二畳と一人で使うには十分過ぎる広さがあるが、食べ終わったコンビニ弁当の容器やカップラーメン、後は飲料水などが散乱している為、少々汚い。だが足場の踏み場や寝るスペース等人が住む広さは確保されている、そんな部屋。

 そのベッドの上で二人の意識が戻ってしまったので。


「えへへ~懐かしい気持ちになるね。今日はちょっと寂しいからぎゅーしてよ」


 と早速甘えてくる育枝に頷き、要望に応えてあげる刹那。

 だけど疲労限界の刹那はそのまま深い眠りへと入っていく。

 すると声が聞こえてきた。


「また一緒にさよちゃんやアリスっちの所に遊びに行こうね?」


「あぁ」


 最後の力を振り絞り返事をすると、刹那の意識はなくなった。

 それに続くようにして育枝の意識も。


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ダイスの神は異世界を救う救世主となれるのだろうか~兄と異世界デートがしたい義妹~ 光影 @Mitukage

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