5-2

 たどり着いたポートは、堅牢な門と高い壁によって厳重に守られていた。敷地の中がどうなっているのか、外からでは全くうかがい知ることはできない。おそらく、地下のずっと深くに、コニーたちが暮らすが埋まっているのだろう。

 カウボーイが据え付けられたカメラに向かって来意を告げても、門が開かれることはなかった。彼は通信機越しに、門柱に埋め込まれたコンソールから少女の意識データを転送するよう指示を受けた。ファーボが残っていたらどうするつもりだったのだろうかと疑問が湧いたが、コンソールの隣に人が入れるほどの扉を見つけ、合点がいった。

 ポケットから物理端末を抜き出し、コンソールにつないだ。転送は、遊園地でおこなったとき以上に早く済んだ。

「お別れだ」

『うん』通信機からコニーの声がした。

「もうあんな無茶はするんじゃないぞ」

『わかってるわよ』

「花は残念だったが、弟には土産話ができただろう」

『そうね』

 少女の反応はどこか鈍い。別れを惜しんでいるのか、早く忌まわしい物理世界を後にしたいのか。カウボーイには判断がつかなかったが、いずれにせよ立ち去る頃合いに思えた。

「それじゃ、家族によろしくな」

『ねえ』と、コニーが遮るように言った。『あなたもに来ない?』

 その声は、今はどこにもない――本当に、この世のどこにも存在しない――娘の声と重なって、カウボーイの耳に届いた。

『あなたは今までずっと、でボットたちからサーバを守ってきたんでしょう? その働きがあれば、このサーバにだって入れるはずよ。必要なら、わたしがパパに頼んで、推薦状を書いてもらうわ』

 カウボーイは白くて硬い顎髭をさする。

『一人ぼっちで生きていくより、きっと素敵よ。あなたはもう十分、で働いたんだから。後はで新しい人生を歩めばいいじゃない』

「ありがたい提案だな」と、カウボーイは言った。「だが、で、手放すには愛着がありすぎるんだ」

『そんな世界でも?』

「こんな世界でも、な」

 やや間があってから、ため息をつくような声が聞こえた。

『わかったわ。あなたがそう言うなら諦める』

「素直だな」

『もともと素直よ』

 今度はカウボーイが鼻を鳴らした。

『さようなら、カウボーイ。せいぜい長生きしなさいよ』

「お前もな」

 少女からの返事はなかった。システムが、彼女の帰還処理を終え通信を切ってしまったらしい。

「達者で暮らせ、コニー」老カウボーイはつぶやいた。

 それから彼はコンソールの前を離れ、ポラックの背に跨がった。相棒に指示を出し、元来た道を戻り始める。

 ポラックが速度を上げる。

 カウボーイたちは荒野を駆ける。風を切り、乾いた大地を蹴りながら。

 彼らは小さな点となっていく。やがて、陽炎揺らめく地平線へと消えていく。




〈了〉

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バイ・バイ・フィジカルカウボーイ 佐藤ムニエル @ts0821

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