第三章 ジップ

第6話 魔王の側近

 フードを脱ぐ魔王。

 目は地獄の業火のような暗い赤。しかし、その姿は、どう見ても少年だった。

「お前、人間なのに、なんでこんなことやってるんだ」

「人間……」

 と言ったあとで魔王は黙った。口を動かして、だが何も言わず、すこし後にハァハァと息を荒げた。

 魔王が圧迫感にさいなまれていることを知る者はいない。

「いけません魔王ジップ様。そんなガキの言うことを真に受け――」

 まで言ったところで、側近のティクトはふっ飛ばされた。ゴロゴロと転がり、壁にぶつかってようやく止まる。

「黙れ」

 魔王ジップはそれだけ言った。ティクトはうやうやしくこうべれた。

(こいつは僕が何者なのか、知っているのか?)

 アルクが告げる。

「お前、照れてるだろ。俺もだ。だからお前は人間だ」

 内気なアルクは、ジップの心情を察したようだ。

「わけのわからないことを言うな、君は。僕に感情なんて必要ない」

 魔王は珍しく長話をした。アルクは続ける。

「俺だってそう思うことくらいあるかも。でも、お前が魔物じゃないのは間違いない」

 アルクは嘘をつかない。そのことを思い出す魔王。遠くから姿を見続けていたジップには、それが分かるのだ。

「僕は……人間なのか?」


 突然、ティクトがアルクに襲いかかった。

「せっかくここまで育てた魔王様を、お前のようなガキのせいで台無しにされてたまるか!」

「こいつ! お前が、裏から操ってたのか!」

「私は、一人で寂しそうにしていた魔王様を、偶然助けて、一緒に居てあげたんだよ」

 魔王ジップのなかで、記憶の断片がよみがえった。

 自分をかばって倒れる両親。襲われる街。目をつむり、耳をふさいでしばらくして、目の前にティクトが現れた。

「大丈夫ですよ。私があなたを助けます。ずっと、一緒ですよ」

 ずっと、一緒。

 魔王と呼ばれる少年は、一歩も動けずにいた。

「許せねえ!」

 叫ぶアルク。しかし、攻撃を受けてふっ飛ばされる。

「今、邪魔者は消し去ってあげます。この世界は、魔王様の。いや、私の物だ!」

「おい! ジップ! 助けろ!」

 魔王ジップは構えたが、攻撃しない。その手は震え、表情はゆがんでいた。

「勇者が魔王に助けを求めるとは。恥ずかしくないのか?」

 嘲笑あざわらいながら攻撃を続けるティクト。

「ジップ!」

 アルクはなおも呼びかける。魔王は攻撃しなかった。アルクには、もはや立ち上がる力も残っていないように見える。

「終わりだ! ガキ!」


「お前がな」

 ティクトがとどめを宣言したあと、アルクは機敏な動きで攻撃を避けた。すぐに立ち上がり、逆に一撃を食らわせる。

 劣勢はアルクの演出だった。ジップの心を動かそうとしたようだ。

「魔王様、助けて」

「ふざけるな!」

 勇者アルクは怒っていた。容赦のない攻撃をつづける。

 ティクトを助ける者はいない。そのまま、雷を宿した蹴りをあびせるアルク。ティクトを焦がした。

 魔物は、霧となり消えなかった。その場に倒れ込んだ。

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