まいん勇者

多田七究

第一章 アルク

第1話 勇者の旅立ち

「コンド、アッチ、イク」

「イイネェ」

 魔物が、わがものがおで練り歩いていた。それを邪魔する者はいない。

「ちくしょう」

 こっそりと移動する若者が、まがまがしい大地へと入ろうとしていた。

 ピカッ。

 しかし、閃光せんこう轟音ごうおんが人の侵入をはばむ。人間が魔物の縄張りに近付くと雷が落ちるのだ。

 同時刻。別の場所。

「野郎ども。行くぜ」

「おう!」

 人間が魔物の住み家を爆弾で攻撃しようとした。

 カチーン。

 だが、爆弾は一瞬で氷漬けになる。あたりにまがまがしい存在は見当たらない。遠隔攻撃されていた。

「に、逃げろー」

 人々は、姿の見えない魔王に恐怖した。


 田舎のイーの村。

 どこか地球とは違う植物が目に飛び込んでくるものの、春であることがわかる。桜のような木が、ピンク色の花をたくさん咲かせているからだ。

 その村に、少年はいた。10歳くらいの。一見、ごく普通のあどけない男の子に見える。

「よっ」

 友人たちが訪ねてきたようだ。

「こんにちは」

「また見せてくれよ、アルク」

「しょうがねぇなぁ。サラマ!」

 まんざらでもなさそうなアルクは、両手に力を入れて構えた。すぐに、バチバチと火花がはじけ、光が激しくまたたき始める。

 木につるされたロープ。そこに結ばれた木の棒が、次々とはじけ飛んでいく。

 その少年は、雷を身体からだにまとっての攻撃を得意としている。

「何度見てもすげーな」

「そうだね」

 とはいえ、アルクは、離れた場所に雷を落とすことはできないようだ。

「どこでも攻撃できるとか強すぎだろう常識的に考えて。倒すなんて俺には無理だ」

 少年には、魔王退治をする気がないらしい。

「そうかな?」

「近づけば、ワンチャンあるって」

「ダメダメ。俺をおだてても、しょうがないぜ」

 友人たちに乗せられた少年は、ほおを染めて満面の笑み。青い目が細くなる。アルクは自分の力を自慢していた。年相応に調子に乗っている。

「すごいだろ」


 国の名前はアーキ。

 ここに住む者なら誰もが知っている、ただの大都市であり記号。転じて、市街地のことを指す場合もある。

「アルク。こんなものが届いているぞ」

「なんだよ。父さん」

「あらまあ。母さんにも見せてほしいわ」

 それは、招待状だった。活字のないこの世界では、とうぜん手書き。

「げっ」

「言語学者の父さんなら分かるけど、なんでアルクが?」

「はっはっは。非凡な才能を見出みいだされたとみえる」

 とつぜん、アルクが城に呼ばれたようだ。

 両親の付き添いを断り、少年は一人でアーキの中心地へと向かった。普段着で。もちろん、馬車で。途中で、迎えの兵士と合流する。

 大きな石の門をくぐり、赤いじゅうたんの歓迎を抜け、王の間へとたどり着いたアルク。

 王の長話を受け目がうつろになっている少年に向け、大臣が口を開く。

「魔王を倒せば、何でも褒美をあげますよ」

「なんでも?」

 一瞬だけ生気を取り戻したアルクは、すぐにまた沈んだ表情に戻った。

「“なんでも”とはなんだ。もったいない」

 王は貧乏性だった。少年の気持ちなどお構いなしで、いい大人二人が舌戦ぜっせんを繰り広げる。

「――ですから、ズウ様」

「ザックよ。しつこいぞ」

「少年の願いごとき、かなえられる器があってこその王ですぞ」

「よかろう。なんでも褒美をとらす」

 ケチな王様のズウが、大臣に乗せられて承諾した。

「ええっ」

「それでは、魔王退治の仲間を紹介いたしましょう」

「俺の意見はムシかよ」

 どうやら、戦いは決定事項のようだ。仲間を押し付けられるアルク。

「ワシはナナジと申す者。知識なら任せてくだされ」

 まずはナナジ。魔法使い。豊富な知恵と英知を誇る、ご意見番。60歳くらいに見える。帽子にマント姿。おおきな杖を持つ。

 アルクの反応は薄い。

「自分は、ジャックです。力には自信があります」

 つづいてジャック。戦士。圧倒的な身体能力を誇る。ガチガチの筋肉。ムチムチ。20歳くらいに見える。防具は部分的にしかつけていない。

 アルクは暑苦しそうな反応。

「わたしはリズ。あんたが勇者なんて、認めないんだからね」

 最後に、リズ。回復に長けた、癒し要因。パーカー姿。短いステッキを持っている。

「認めるもなにも、俺は勇者なんてやらないぞ」

「なによ、その言い草は」

「なんだよ。早くうちに帰れ」

「あんたより年上よ、わたし!」

 リズはアルクより1つ上なのに、同い年か下に見える。発育があまりよくない。

 アルクが子供扱いしてケンカになった。


「――というわけじゃ。参りましょうか」

「そうですね。ナナジさん」

「ふぉっふぉっふぉ。ナナじいでいいぞい」

 すっかり仲良しなナナじいとジャック。対照的に、アルクとリズはにらめっこをしている。

「……」

「俺、旅になんか出ないぞ」

「わたしだって、お断りよ」

 しかし、王と大臣は許さない。無理矢理、旅立たされるアルク。

 魔王がいるとされるディープヘルを目指すようだ。

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