第二章 勇者一行

第4話 強敵

 デーの村。

 春眠暁を覚えず。眠そうな少年が、宿でゴロゴロしていた。

 のんびりしているアルクは、パーカー姿の少女にたたき起こされた。

「起きなさい! 緊急事態よ」

 リズの声色がいつもと違う。さすがに、ただごとではないと察したアルク。二人が急いで外に出た。

「なんだ、これ」

「早く、戦わないと!」

 昨日まで平和だった村が、無残むざんな姿になり果てていた。建物は壊され、田畑は荒らされている。

「くっ」

「トゥーリ!」

 戦士と魔法使いが、何かと戦っている。風の魔法が炸裂し、お互いに距離をとった。

「勇者はどこだ。このビトムに恐れをなしたか?」

 村を滅茶苦茶めちゃくちゃにした魔物は、人に近い姿のビトム。アルクと目が合った。

「うわぁ」

 アルクは、振り返って全力で走り出す。一目散に逃げ出した。

「む。これは困りましたな」

「仕方ない。自分たちでなんとかしましょう」

「あんなやつに頼らなくっても!」

 ナナじい、ジャック、リズが立ち向かう決意を固めた。3対1の戦いが始まる。

 魔法で強化した蹴りを浴びせるジャック。しかし、ビトムは難なくガードしている。

 マーペラの魔法で目くらましをするナナじい。だが、ビトムはすでにその場から離れていた。

「こ、腰が」

「ふんっ」

 魔物の一撃を受けた老人が、おおきな杖とともにゴロゴロと転がる。即座に駆け付けたリズが、ステッキを振るってナナじいの傷を癒した。

 アルクの仲間たちがピンチだ。

「お前は口だけか!」

 こっそり戻ってきて様子を見ていたアルクに、リズの言葉が突き刺さる。

「俺の力、見せてやるぜ!」

 仕方なく一緒に戦うアルク。

「最初から、そうしなさいよ」

「まあまあ。そんな話はあとです」

左様さよう。3・2・1・バロ!」

 四人が目をつむる。そして、強い光がほとばしった。

「しまった」

 一時的に視力を奪われたビトムは、攻撃がどこから来るのか分からない。

「ボイミステラ」

「ジャーパラ!」

「そこか!」

 詠唱に反応したビトム。のけぞったところを、勇者アルクは見逃さなかった。

「サラマ!」

 雷鳴を宿したこぶしが、魔物に直撃した。

「ば、バカな。このビトムが」

 勇者一行の連携により、なんとかビトムにダメージを与えたようだ。

「これが勇者の力だ!」

「くっ。覚えていろ」

 逃げるビトム。追撃はしない。というより、できなかった。全員、力を使い果たしてその場にうずくまっていたのだ。


 夢。

 何度も見ているため、夢だとすぐにわかった。

 周りから押しつぶされるような、圧迫感。

 倒れる女性と男性。あたりが暗くなり、明るくなる。

 城の玉座ぎょくざで、魔王ジップが目を覚ました。

「うなされていましたよ」

 魔王を抱きしめる側近。人間の女性に近い姿をしたティクトは、さらに言葉をつづける。

「大丈夫。私が、そばにいますから」

 魔王ジップは、声に出さずに考えていた。

(この自分は一体、何者なんだ)


 ビトムは強敵だった。

 どうあっても、さらなる力が必要だ。

 びびっている場合ではない。アルクたちは、魔物の住み家を目指す。巨大な洞窟へとやってきた。

「マジックアイテムが手に入るかもしれない」

「うむ」

「そうですね。急ぎましょう」

 警戒するアルクをよそに、三人は先へと進む。雷による攻撃はなかった。

「ふぅ。おい。待てよ」

 ひたすら戦い、レベルを上げていく勇者一行。

「とおっ」

「ベシマッサ!」

 ナナじいとジャックの連携で、鉱石のような魔物が倒れた。ピクリとも動かない。

「いま回復するわ」

「あぶねぇ!」

 天井から襲いかかってきたコウモリのような魔物。一撃を受け、よろめくアルク。

「ごめん。油断し――」

「そんなのはあとだ!」

 雷撃をまとった勇者アルクが、魔物に数発のコンボを叩き込む。すぐに霧散する魔物。見守るナナじいとジャックが、その場に座りこんだ。

 少女が呪文を詠唱する。

「タルビタ」

「ありがとな」

 回復魔法を受け、照れくさそうに告げたアルクが、口元をゆるめる。つられて、リズも微笑んだ。

 アルクとリズの距離が、すこし縮まったようだ。

 その後も、さらに戦いは続く。

 洞窟から多数の戦利品を持って出るころには、全員が見違えるほどたくましくなっていた。

 そして、ズィーの村までやってきた。魔王のいる一帯まで、あとすこし。

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