第20話 トウダイ開始

「おい、まだあいつの居場所分かってねえのか」

「……いえ、聞いた情報によると、トウダイに魔術学院の一年三組として出場するようです……」


 無名選手に無残な敗北を喫したSSランクの剣聖ソレイド・アレクサー。

 あまりの惨敗ぶりに、世間の評価も暴落。さらに、今までの悪行が暴露され、庇いきれなくなった『聖剣の柄』は彼を放棄、クビを告げた。


 と、


 表向きはそうなっているが、実際のところは、トーラの損失により長期計画が破綻し、ジワジワと経営が危うくなっているところへのコストカットで、首斬りの筆頭に上がっていた剣聖。

どう言い訳をつけようかと散々協議していたところ、勝手にいい感じの解雇理由を作ってくれたので、サクッと切ったというのが話のシナリオだ。


 直近の成長率を計算に入れた長期計画は、既に始まっていた。


 近年の躍進を見て予算を設定した、かなり大規模な計画である。

 しかし、トーラが消えたことにより、今後の成長は見込めず、計画は破綻。

 世界一のギルドとは言えど、体力は有限だ。早急に資金を確保しなければ、負債で数年以内に倒産という不味い状況に陥っていた。


 SSランクである剣聖が筆頭に上がったのは、近年、高い給料の割に極端に稼ぎが少なかったからだ。なまじ若く才能があるだけに、徐々に天狗になり、周りにも悪影響を与えているということも理由にある。


 そんな状況で、運よくギルドに追い風が吹いた。それで体よく解雇できたというわけだ。


 トーラの充実した生活の裏で、ソレイド・アレクサーは無職剣聖となっていた。


 世界的に有名なSSといえど、無職冒険者は無職冒険者。社会的信用は無しに等しい。そのため、商人もランクの高い冒険者ほど避ける。


 ソレイドはニヤリと笑う。


「大会か……ちょうどいいな」




「なんだこれ……」


 控室。受け取ったメンバー表を見て、僕は震えていた。


「師匠以外、先生達でてないですね?」

「どういう事ですか学長!?」


 学長は腹を抱えて笑い出す。


「ヒィー!! おっかしいおっかしい! 実のところ、ルール上は教師も参加して良いんじゃが、上二年はもはや生徒の方が強く、下は生徒の成長のためにと自重するから、教師は大会には出んのじゃよ!」

「はぁぁ!? 何てことを! もう登録してきたんですけど!? また僕を騙しましたね!!」

「騙すとは人聞きの悪い!!」

「どう考えても騙すつもりでしたよね!?」

「まぁまぁ、お主まだ16じゃろ? バレンバレン!」

「そういう問題じゃないですよ! まるで僕が生徒のことを考えない、自分勝手なやつに見えるじゃないですか!」


 なんてことだ……これじゃ恥を書いてしまうかもしれないじゃないか……。辞退するか、でも、リンの学費のことが……


 いや、学費のことはこの前解決済み……だな。


 僕が出る必要性皆無では?

 カッと学長の方を見る。


「おっと、ワシは大会職員としていかんといかんでの!! 頑張るんじゃぞい、我が可愛い生徒達よ!」


 逃げやがった。

 まぁ……始まってしまったものはしょうがない。少しでも生徒達に実りがある大会にしよう。




 ステージには特殊な魔法が張られており、一定以上のダメージを超えると場外に飛ばされる。ちなみに、能力等によって場外判定となるダメージは異なる。

 ルールは単純で、相手を場外に落としたら勝ち。


「は、始まりましたよ……」

 と、緊張気味のリン。


「せ、先生……うち、あ……あっ……」

 と、ビビり散らかすコウメイ。


「てめえら、足引っ張んなよ!」

 と、威勢のいいクロクス。だが、膝が震えている。


「大丈夫だろう! 先生さえいれば!」

 と、楽観的なクリーフ。


 三者三様、各々感想を抱きバトルステージの上に立っていた。


「用意、はじめ!!」


 最初の対戦相手は魔法系学校の三年生。生徒が調子付くにはちょうどいいレベルだ。


 魔法系同士の試合ということで、一人のリーダー格を除き、相手は一斉に詠唱を始めた。


「ハハっ! 勝負を諦めたか!? 16歳のガキを出場させるとは、お前達は相当人手に困っているらしいな!!」


 リーダー格の男が叫ぶ。

 あ、僕のことか。


「ウチの魔法詠唱速度は学年最速! 勝負あったな!!」


 早すぎる勝利宣言だ。


「この通り、既に無詠唱を習得している時点で、魔法使いとしてはかなり上位にいるんだ。これで少しは自信もついたと思う」

「ほんとですね……ちょっと自信が湧いてきました……!」


 リンがいう。

 相手が詠唱を始めた瞬間から、クロクスは相手を嘲笑い、クリーフは勝ち誇ったような顔をしている。


 まだ自信を持てていないような子が一人。


「じゃあ、コウメイがここはいってみようか。全員で攻撃してもオーバーキルだし、魔力も勿体無い。それに手の内を晒すのは得策ではないから」

「え!? う、うちが……!?」

「大丈夫だよコウメイちゃん! 一発ぶっ放すだけだから!」

「さっさとしろよ。時間の無駄だろうが」


 そんな言い方はないだろ……。


「コウメイくん! もし失敗しても先生がいる! 肩の力を抜いていくといい!」


 コウメイが覚悟を決めたように杖を構えた。

 幸い、相手はまだチンタラチンタラと詠唱を続けている。


「はっぁ!!」


 掛け声と共に杖が光り、ステージが爆ぜる。煙が収まると、どういうわけかリーダー真ん中に立っていたリーダーだけが残っていた。


 リーダーが鼻水を垂らしてキョロキョロ周りを見る。


「……は?」


「あぁぁぁ! ごめっんっなさっい!! 魔法がそれてしまったぁあ!」

「コウメイちゃん! 逆にすごいよ! 伸び代だよ!!」


 次の試合は誰が魔法使うかな、と思って考えていたら、


「このグズが」


 もう既にクロクスが片付けてしまっていた。

 この性格さえ治せればなぁ……。


「ま、まぁ、一回戦突破おめでとう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

濡れ衣で追放されるも、のちに賢者であることが判明〜いつの間にか追放された世界一のギルドが衰えてたんだが?経営傾いてきたから帰ってこいとか言われてももう遅い〜 @サブまる @sabumaru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ