第16話 Kotono Ao's Fashion Show

5月22日月曜日。体育祭の振替で今日は学校がない。愛央は体育祭の日にホイッスルを吹いて、ポンポンをずっと振って応援した疲れが残っていて、朝起きるのはかなり遅かった。俺は体育祭の負けたイライラで2日も寝ていない。正直、眠い。でも愛央の朝飯も作っていないしなぁ。今日は俺のお金を渡して愛央に買って食べてもらうことにした。


俺は体育祭が終わってから、みんなを応援しすぎて疲れちゃっている愛央と、お昼寝しなくてぐっすり寝たあいちゃんの子守りをしながら、ひたすらずっと動画の編集をやっていた。しかも、10本の動画を編集しているので、かれこれ40時間は起きているだろう。


午前9時、愛央が起きてきた。


あお「おはよう!たっくん」

たく「おはよう・・・」


愛央は体育祭の日と同じ不安そうな顔をしていた。

そらそうだ。寝不足の兄を見ると愛央は不安になる。愛央は元気を出してほしいと願ったのか、すぐにポニーテールを作って、銀色のポンポンを持ってきた。


あお「たっくん!」

たく「体育祭の応援団で疲れたんじゃねぇの!?」

あお「たっくんの応援に手を抜きたくないよ!」

たく「アホ言いやがって。疲れてんなら休めよ」

あお「愛央よりたっくんの方が疲れてるでしょ!癒しと思って受け取ってよ!」


双子だから当然たまには喧嘩もする。でもこういう喧嘩を聞くとだいたい・・・・こうなる。ごらんあれ。


あい「うわあああああああああん!!!!!!」


あーあ、俺たちやらかしたよ。そう。愛央と同じくらい可愛いあいちゃんを、なんと大泣きさせたのだった。


あい「びえええええええええん!!!!!」

双子「やっちまったぁ・・・・」

あお「たっくん・・・ごめんね」

たく「俺こそ。ごめん」


あいちゃんが泣くとかなり大声で泣くもんだから、俺らは速攻で謝ってあいちゃんを泣き止ませようとする。


あい「うわあああああああああん!!!!!びえええええええええん!!!!!うわあああああああああん!!!!!」

たく「やっべぇ、いつも以上に泣いてる・・・」

あお「愛央に任せて。愛央の手元には何がある?」

たく「察   し   た」


愛央は数秒のうちに息を大きく吸って、笑顔であいちゃんをだっこした。


あお「あいちゃん!ごめんね、お姉ちゃんたちが喧嘩しちゃって。だいじょーぶ、だいじょーぶ!ねっ♪ぎゅーしてあげるから、泣きやんで!」


こんな愛央っぽい泣きやまし方で、うちのあいちゃんは泣きやむ。ポンポンを持ったままだっこされたら、あいちゃんだって泣きやむよ。ポンポンの音はあいちゃんにとって、森林のような音がするらしい。不思議な赤ちゃんだが、愛央の応援はそれくらい影響があるのだ。銀色のポンポンが輝いたところで、あいちゃんは泣きやんで大喜びしたのだ。


あい「きゃははははは!」

あお「きらきらきら〜♡」


あいちゃんの喜ぶ顔に愛央が輝きを追加した。といっても、銀色のポンポンを振っただけ。メタリックのポンポンは輝くので、愛央はそれを利用してあいちゃんを輝かせたのだろう。


遡ること5年、俺らが小6の時。この年、琴乃開発株式会社は会社設立15周年だった。愛央はその時まだチアを習っていて、会社設立15周年の記念式典でチアリーダーとして出席した。青いブレザーに赤いリボン、紺のフレアスカートと金運上昇を祈願した金色のポンポンを振って、会社を応援したことがある。さらに、家でずっとポンポンを振って俺を輝かせていた。小さなポンポンでも、場合によってはかなり輝いていて、愛央はその時の俺の笑顔を見るのが好きだった。

あれから5年が経つが、時々愛央はみんなが輝いてほしい時にポンポンを振って、輝かせてくれる。プロのチアリーダーがよくやる、ポンポン文字ってのは到底愛央1人じゃ出来ないけど、他人の横に並んで立って、ポンポンを振ってエールを送るのが愛央は今でも好きなのだ。


愛央は長いスカートがあまりにも嫌いで、動きやすいチアのスカートや制服のスカートを日常的に着ることがある。実は少し足が見えるスカートの方が好きだった。いつ応援するか分からない愛央にとっては、少し素足が見えてるとラインダンスもやりやすいだろうという策略なのかもしれない。


午後になってようやく体調が回復したので、愛央とおでかけをすることになった。甘えん坊の愛央ちゃんは今日も甘えている。


遠出をするために、天川大野から天川中央方面とは逆の電車に乗った。車両は天川300系。元新京成8800形を4両編成に大魔改造したものだ。


とても昭和61年製とは思えないくらい車内は綺麗だがなんと走行機器は30年もの。どこぞの名古屋の赤い私鉄とまでは行かないが、長寿命なのだ。


天川大野から2つ、時間にして3分で北天川についた。地下鉄に乗り換えて、どこかへ行きたいらしい。やってきたのは地下鉄6500系。名鉄や都営とは一切無関係の自社製造車だ。北天川から少し行った新天川で降りる。愛央はお気に入りのスカートが売っている服屋に行くと、真っ先にスカートのコーナーへ飛んで行った。


あお「どれがいいかなぁ・・・」

たく「これとかいいんじゃない?」

あお「これ?」


そこにあったのは青いボックスプリーツのスカート。赤と白のラインが裾の部分に1本ずつ入っている。俺がなんでこれを選んだのか。理由はひとつ、愛央っぽいチアができるだろう。ただ、それだけ。


こんな憶測でもなんとお値段は軽く野口英世3人分。高い気がするが、愛央が可愛くなるものを妥協する訳には行かない。愛央は即決でこのスカートを選んだが、なんともう少し買いたいようだ。


あお「たっくん!愛央って、チュールスカート何着もってたっけ?」

たく「白色無地のプリーツタイプで膝下くらいのやつが1着、さくらんぼ柄のプリントがあるやつが紺1着、白1着、後は愛央が体育祭のチアリーディングで使った裏地が青色の白いストライプ柄チュールスカートが1着、黒の膝上無地のチュールスカートが1着。あとは制服の4着。青色と白色と紺色とピンク色だった気がするよ。こんくらいじゃね?」

あお「愛央、普通のチュールスカート着たことないのね。合いそうかな?」

たく「白色のこのくらいの丈なら合うんじゃない?」

あお「うん!試着してみるね!」


2分後、妹の愛央は乙女のように可愛かった。

白いチュールスカートって女子力抜群なんだなと感じた俺である。愛央の動きに合わせて揺れる2枚のレース。そこに俺ら男子は可愛いって感じるのだ。というかうちの愛央ってどんなスカート着ても可愛いんじゃないの説出てるけど。


愛央は紺のチア風ボックスプリーツと白いチュールスカートや色違いのチュールスカートを買った。

水色と白色と薄めのピンク色をチョイスした愛央の女子力は高すぎではないのかと疑ったがそれがうちの琴乃愛央だ。


4着で13000円。チュールスカートも全部値段は同じだった。喜んだ愛央は新しい服を買うと、毎度恒例のファッションショーをやるのだ。




新天川の駅は2面4線、ホームが2つ、線路が4本の構造だ。天川市営地下鉄は快速、急行、普通と3つの種別が走っている。俺らはどれに乗ろうと北天川には絶対に降りられる。そして天川電鉄天川線あまがわでんてつあまがわせんは天川中央を含めた11の駅しかない路線。終点は天川真鹿野あまがわまかの駅。天川大野は天川中央から3つ目なので、実は案外座って移動できるのだ。


琴乃開発株式会社は天川市でいちばん大きい会社。愛央は親の会社の応援団になることもあるものの、基本的には兄想いなので俺とあいちゃんを応援している専属のチアリーダーなのだ。


天川大野駅南口から歩いて5分で自宅に着く。マンションっぽい見た目だが、1~4階は実質オフィス。愛央や俺の部屋などのいわゆる子供部屋は5階の部分だけ。結構広いので、色々できるのだ。


帰宅して手を洗ったり買ってきた飲み物などを冷蔵庫に入れたあとは、愛央のチアファッションショーの時間である。よく愛央がやることなのだが、簡単にその説明をしよう。


うちの愛央はチアリーダーっていうことを、過去にさんざん話してきたが、愛央のもうひとつの好きなことが、色々な服を着たうえでポンポンと合わせて披露する、ファッションショーが好きなのだ。


今日は3着のコーデ。ポンポンは毎回変えて、持ってきたり持ってこなかったりするとのこと。愛央の準備が出来たら、It's Show Time.


準備の出来た愛央はスカートを揺らし、ポンポンを振って入ってきた。オレンジの半袖ブラウスにピンク色のチュールスカート。というか、チュチュスカート?なんかめちゃくちゃふわふわしているスカートと愛央の大好きな青メタリックのポンポン。

ふわふわのスカートで振るポンポンの音が部屋中に響き渡る。そして愛央は、


あお「きみならできる、絶対ね!」


と言って、次の服に着替えるのだ。愛央の可愛さが1番受けられるこの時間、俺の心は「穏やかじゃない!!!」(某アニメのセリフ)


2着目はチアリーダー感らしさが出ているベージューのパーカーに紺色のボックスプリーツスカート。

裾のラインがアクセントになっている。このコーデで組み合わせたポンポンは、金色。チアリーダーのポンポンは色によって効果が違うとされるが、1番元気にしてくれるであろう色は、実は金色だったりする。自分に自信が持てたりできる効果があるとの事。愛央は日によってチアの色を変えるが、金色を使う機会が多い。


あお「L!O!V!E!GO!FIGHT!WIN!」

たく「可愛さ抜群だろ」

あお「がんばれがんばれたーっくーん!Fooooo〜!!!!」


俺は愛央が英語で応援したところを見たことがなかったので正直緊張した。そして愛央はスキップして次の服に着替えてきた。



3着目はデートコーデらしくポンポンは持ってこなかった。白いブラウスに細い黒のリボン、白いチュールスカートと女の子らしさがかなり出たデートコーデ。小さいカバンにお財布とスマホだけ入れただけの荷物は、まさにJKのお出かけって感じがしていた。愛央は少しだけど友達がいるので、たまにお出かけをすることがあるがまさにその時の服って感じがしていた。


4着目は後日お出かけをする時に着ていくらしい。

愛央は3着目に着ていたコーデに加えて、ハーフアップを作って欲しいと願ってきた。愛央のハーフアップはちょっと可愛くて、普通のハーフアップの位置と、ポニテの位置でハーフアップを作る2箇所のやり方がある。愛央は今日に限ってポニテ風ハーフアップを作ってほしいとお願いした。


ピンク色のポンポンを持ってきた愛央にハーフアップを作ってあげた俺は、愛央に鏡の前へ連れていかれた。


金色×赤グリッタ×青メタリックのポンポンを持った愛央はにっこり笑顔で俺の横に立った。俺の前にはカメラがあるが、愛央はチアリーダーっぽくポンポンを振って俺が笑っている写真が撮りたいらしい。


めいっぱい撮れて満足な愛央はこう言った


あお「たっくん、眠いのにありがとう」

たく「大丈夫。また頼ってね」


俺はこう言って寝たのだ。

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琴乃家の日常 1st Season 小糸匠 @koito_2716

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