第15話 愛央と匠と体育祭
5月20日土曜日。時刻は深夜2時である。
愛央もあいちゃんも寝てしまってから6時間が経っている。俺はそんな夜中に起きたのだ。
何故か。実は今日、私立方南高校の体育祭の日であるからだ。俺の妹、琴乃愛央にとびっきり可愛いツインテールを作ってあげたい。そのために深夜2時に起きて、深夜テンションモードでパソコンをひたすら打つ。
15分後、愛央にピッタリのツインテールが見つかった。これを作るかと決めた俺が、次にやったのはリボンとゴム選び。愛央は髪が普通の長い女子より更にちょっとだけ長い。だから、耳横のツインテールが1番似合うのだ。それをさらに可愛くする方法・・・こんな考えをしていると普通にゴムとかは決まるもんなんだね。愛央のヘアゴムは基本俺セレクト。それでも愛央は文句を言わず、喜んで結ばせてくれる。今日の愛央は紺のゴムに赤いリボンをつけてあげることにした。
道具をリビングの机の上に置き、早めの朝飯調理へ移る。今日は洋の朝食にすべく、iPad Pro(12.9インチ、1TB)でフレンチトーストの作り方を調べる。
前日に仕込みをしておいたので後は焼くだけ。
時刻は午前3時、愛央が起きてきた。
あお「おはよー。たっくーん」
たく「はよ。愛央」
あお「なんかたっくん、今日早くない!?」
たく「2時には起きたぞ。今日の日付見りゃわかるだろ」
あお「5月20日・・・体育祭の日!?」
たく「そゆこと。つまり、机の上見たら分かるよ」
あお「ツインテール、作ってくれるの?」
たく「あたまえだろ!愛央に体育祭のツインテールを作るのは愛央の可愛さをあげるためだよ!」
あお「やったぁ!たっくんありがとう!」
気持ち悪い気がするが愛央は大喜び。さすが、体育祭の日にはツインテールじゃなきゃダメな双子の妹である。
4時20分、まだ午前4時代なのにあいちゃんが泣き出した。どうもお腹がすいたのだろう。まぁ前日のミルクの最終は16時だったし半日前だと腹減るわな。
あい「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」
あお「たっくん、あいちゃん泣き出しちゃったね」
たく「4階が生活スペースの親は寝てるしここかなりの防音で愛央がチアで大きい声出しても下には全く聞こえないくらい防音だからね。さてさて、お腹がすいたあいちゃんにミルクあげますか」
あいちゃん用のミルクは既に出来てあったので、それを飲ませる。
あい「きゅぴ・・・あぶ?きゅぱきゅぱ」
たく「よく飲んでる。おはよ。あいちゃん」
あお「可愛い〜♡愛央、着替えようかな」
たく「着替えたら、ツインテール作ってあげるね」
あお「ありがとう!」
あい「きゅぱぁ・・・おいちかった!」
たく「良かった良かった。さてと、俺らのフレンチトーストはどうなったかなぁ?」
肝心のフレンチトーストはめちゃくちゃ完璧。
ちょうどよく焼けていたのだ。
15分後、愛央が超可愛い服でリビングにきた。
ノースリーブのブラウスと紅組応援用の赤いプリーツスカート。その上に白いチュールが2枚重なっている。そしてその姿で椅子に座った愛央に、俺は調べた限り愛央が1番可愛くなるツインテールを作ってあげた。
たく「愛央、覚悟は良いな」
あお「うん・・・たっくん、愛央は本当にいつも以上に可愛くなるの?」
たく「兄を頼りな。俺が今まで愛央を見てきた中で1番可愛くしたるから」
10分でツインテールは完成。フレンチトーストは食べ頃の時間だ。鏡を見た愛央は大喜び。フレンチトーストを食べる前にチアを始めようとしたのだ。
あお「やったぁ!ねぇたっくん、愛央・・・可愛くなった?」
たく「やべぇクソ可愛い」
あお「たっくんが作ったじゃ〜ん♡」
これうちのクラスの男子が見たら写真撮るやつ多いんじゃねぇかって思ったがたしかに愛央は過去一可愛い。そりゃだってさ、チュールスカートにツインテールって1番合うんですよこれが。
フレンチトーストを食べ終わった俺は体操服へ着替えた。うちの学校の体育祭、特殊すぎて。女子の競技はほとんどなし。あっても1つや2つなので女子たちは観客かチアリーダーのどっちかを選ぶってことだ。うちのクラスは8人がチアリーダーで、残りの16人が観客らしい。愛央は当然、応援団である。そしてツインテールにリボンをつけた愛央の髪にはまだやることが残っている。体育祭といえばはちまき。そう、愛央は応援団をやる関係ではちまきを巻かなければならない。愛央はいつもなら1人で巻くのだけど、今日ばかりは流石の愛央でもツインテールを崩したくないらしい。愛央はどうしようか迷っていたのだろう。ポンポンを持った状態で固まってしまった。
たく「愛央、あじした?」
あお「たっくんにツインテール作ってもらったのに、はちまき巻いたら自分でツインテール崩しちゃいそう・・・」
たく「しゃーねー巻いたろ。ほれやるぞ」
仕方ないけど、着替え終わった俺はツインテールを崩さずにはちまきを巻いてあげた。愛央は安心しきって、いつものように元気になったのだ。
時計の針は午前6時30分をさしている。さぁどうしよう。全然時間あるではないか。と思っていた時にあいちゃんが話しかけてきた。
あい「にーにー!あいたん行きたい!」
たく「えっ?」
あお「行きたいの?」
あい「あぶ!」
きゅぴらっぱ〜を出さないことを条件に体育祭へ連れていくことにした。あいちゃんのおまじない、この前のように何が出るか分からんしな。
さてそろそろ家を出る10分前になる。時刻は7時35分。愛央はとびっきり可愛く応援を始めた。
あお「フレ!フレ!たっくん!ふぁいと!ふぁいと!GO!FIGHT!WIN!」
開いた口が塞がらないとはまさにこれ。可愛すぎるんだよなぁ愛央。そして愛央はポンポンを片付けると俺の右手を握って家を出た。
体育祭当日の私立方南高校1年E組は大騒ぎになった。波野先生を含み、俺らを除く39人が愛央の方向を向いている。そりゃ目的はうちの愛央。めちゃくちゃ可愛いツインテールで来たもんだから男子を始め注目の的なのだろう。そんな愛央は俺の事をハグしている。匠が勝てるかどうか、不安なのかな。愛央は不安な俺を見たり、自分が不安になると俺から離れなくなる。ずっとぎゅーして恥ずかしがるのだ。人見知りとはいえ、信頼できるのは俺だけなのだろうか。
朝の9時から6時間、ずっと俺らは動き続ける。愛央は終始不安な顔でホイッスルを吹き、ポンポンを振っていた。午前中に応援合戦をやったが、愛央は副応援団長兼女子応援団長だった。「ピピ〜ッ!ピピ〜ッ!ピ〜ピ〜ピ〜ピッ!」とホイッスルを吹いて、最後にチアリーダーらしく、ポンポンを輝かせた。そして、体育祭最後の競技は綱引き。しかもいちばん最後にF組とE組の対決という。
愛央はホイッスルを首からさげたまま、特注のポンポンを持って俺の近くへ応援しにきた。
あお「たっくーん!」
たく「おぉ愛央じゃねぇかあじした」
あお「いよいよ、最後だね」
たく「勝てっかなぁ。接戦だしなぁ」
あお「ふぁいと!たっくん!行くよ。ピッピッピピピッ♪ピッピッピピピ〜ッ♪」
愛央はホイッスルを吹いて応援したあとに、元の位置に戻っていった。
俺は愛央の期待は裏切りたくないが、同時に負けたらどうしようって思っていた。
綱引きは現時点で1-1の引き分け。この試合で決着がつく。双子の妹、琴乃愛央、一番下の琴乃愛華、そして俺、琴乃匠の不安はこの時一番大きかった。試合時間は30秒。極真をやっていた時よりは短いものの、めちゃくちゃ緊張する。
愛央は泣き目で俺らを見守っていた。あいちゃんはきゅぴらっぱをいつ出してもおかしくない。
ピストルが鳴り、俺らはいっせいに引き始める。
愛央は思いっきり「ピ〜ッ!ピ〜ッ!ピッピッピッピッ!ピィ〜〜〜ッ!」とホイッスルを鳴らし、泣きそうになりながらチュールスカートを揺らしつつポンポンを振っていた。あいちゃんも「にーにーがんばえー!」って愛央のメガホンを使って応援している。あと少しの時間だが・・・
試合終了のピストルが鳴った。結果は・・・・
F組の勝ち。実質、俺ら紅組の負け確定演出だ。
愛央はホイッスルを口から外すと、俺の所で泣いてしまった。あいちゃんも俺の所へ来て泣き始めてしまった。俺はそんな2人を抱いていた。泣く乙女を誰が放っておけるか。
閉会式で結局白組の勝ちが決まってしまった。だが俺は怒れなかった。だって、愛央が恥ずかしいのを我慢してホイッスルを思いっきり吹き、赤いポンポンをずっと振って、チアダンスを踊って、いっぱい応援してくれた。それで泣いてまでいるのに、怒ったら場違いだもん。普段なら怒鳴り散らす俺も、今年は黙って終わらせた。
あお「うわぁぁぁん!!たっくぅぅぅん!!」
たく「愛央・・・ありがとっ。思いっきり応援してくれて」
あお「紅組のみんな応援しててたっくんのこと本気で応援できなかったのに〜!」
たく「よしよし。今年は負けちゃったけど、
愛央はすっごい輝いてたよ」
あお「ひっく、うん。ひっく」
あい「うわぁぁぁん!!!」
たく「あいちゃんも、見ててくれてありがとう」
あい「にーにー!うわぁぁぁん!!!」
たく「ぎゅーしてあげるから。とりあえず教室行くよ」
あお「うん・・・・」
ぎゅーをして、2人で手を繋いで教室に戻ってくると、そこには39人全員が、しかも先生方まで、俺と愛央、そしてあいちゃんを待っていた。
愛央は使いこんだポンポンと大きな音を鳴らして応援したホイッスルを外すと俺の後ろで隠れ、見事なバックハグをしてしまった。
伊野「お疲れ様。琴乃三兄妹!いや、委員長!」
1年E組全員が拍手をしている中、俺らは戸惑っていた。愛央は「たっくんおんぶして。あとで」って言った。俺は頷いて39人の方向を向き毒舌を披露した。
たく「はぁ?」
先生「よく頑張ったね。匠!愛央!あいちゃん!」
たく「あどうも」
あお「ひっく、ひっく。せんせ〜!うわぁぁぁん°(ಗдಗ。)°.」
先生「愛央ちゃん、頑張って笛吹きながら応援してたものね。悔しいよね」
あお「うん!私頑張ったよね・・・せんせ」
先生「愛央ちゃんは頑張ってたよ。匠もよく頑張ったね。みんな、もう1回拍手!」
全員「パチパチ★(•ᴗ•ノノ)パチパチ★(•ᴗ•ノノ)パチパチ★(•ᴗ•ノノ)」
飯田「委員長!凄かったです!」
あお「え待ってたっくん、学級委員長だったの?」
たく「はぁ?んなバカな。俺が学級委員長とかんなもんまだ決めてねぇかったはずだべさ。いつの間に決まってたんです?」
先生「実はね、愛央と匠の2人が1番頑張ってたから、双子で委員長と副委員長を任せる?ってみんなに相談したの。そしたら全会一致。どう?引き受けてくれる?」
あお「・・・愛央、副委員長頑張る!」
たく「はぁ・・・んじゃ、おらもみんなの期待に応えるよ。よろしくな。お前ら」
全員「はい!」
まさかの展開だが、愛央と俺とあいちゃんがずっと教室に戻ってこなかった分、奴らで勝手に委員長とかを決めていたのだ。ふざけんなとは思ったが、泣きやんだ愛央はぎゅーしてきた。仕方がねぇが、負けたのは悔しい。でも、最愛の妹、琴乃愛央がいたから我慢できた。愛央、ありがとうね。
この後全員で記念写真、そして愛央と俺とあいちゃんの3人で沢山写真を撮ってもらった。特注のポンポンを愛央はずっと振っていた。ホイッスルを咥えてポンポンを胸の前で持った写真を撮ったり、チアリーダーのようにポンポンを振った写真を撮ったりした。 ちなみに集合写真の時に俺と愛央だけチアのパンチアップってやつを「半分強制的」にやらされた。
その日の夜はツインテールを解いた愛央にご褒美のデザートを用意した。俺の自腹で。愛央の大好きないちごプリン。あいちゃんと2人で食べていた。寝る前には、愛央が珍しく俺の布団で寝たいと言い出し、3人で同じ布団を被って寝た。愛央は最後までぎゅーしていた。
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