第29話 ハーストとヴァレリィ
「やぁお嬢さん。祭りは楽しんでいるかい?」
「え、は、は、はい。なんとか……」
「ん~、その格好動きやすそうでいいね。それでいて大人の女性の雰囲気を醸し出している。おっと失礼、俺の名前はハースト。普段はギルドパーティーの一員として働いているが、今は君のような麗しきレディたちのために、この祭りに舞い降りてきた天使ってところさ」
「は、はぁ」
「ふふふ、緊張してる? 俺のこと苦手って顔してるね。いいよ別に隠さなくても。色んな女性がいてくれたほうが、俺も愛し甲斐があるってもんさ。君、名前はなんていうの?」
「あ、アンネリーゼ、です」
「アンネリーゼ……ん~、高貴さを感じさせてくれる良い名前だ。ありがとう。これはほんのお礼だ」
出会って早々に歯が浮くようなセリフを並べ立てるハースト。
そして彼女の手をそっと取るや、甲にキスをする。
「へ、へ、へ、へぇ!?」
「今宵の出会いに祝福を込めて、さ」
「卿よ、あまりこの娘をからかうものではないよ」
「うん? ……ッ! なんってことだ! まさか男装をしていただなんて……。俺のレディを見る目もまだまだ未熟だな。失礼、お名前をうかがっても?」
「名乗るほどの者でもないよ。わたしのことを気にするよりも、卿の周りの女性たちを大事にしてあげたまえ。さっきから卿が目移りばかりしているからむくれているぞ」
「……アウチ、なんて慈悲深く、そして高潔なお方なんだ。いいでしょう。ここはアナタの言葉を尊重しよう。じゃあ、そろそろ別の場所へ行くよ。またねアンネリーゼ。どうしても俺に会いたくなったら寝る前に祈ってくれ。そうすれば、きっと夢の中で会えるからさ」
「は、はい……ありがとう、ございます」
ハーストの不思議な色香にぽーっとしかけた直後、それを突き破るような低い声でヴァレリィがハーストに食ってかかる。
「よーよーよー、ずいぶん見せつけてくれちゃってんじゃあねぇの。俺との挨拶がまだだぜ? お互い自己紹介しようや……」
「ん? なんだいたのか。まぁよろしく頼むよ。このレディたちを困らせるんじゃあねぇぜ。じゃあな」
ハーストの素っ気ない態度にヴァレリィはさらに怒り心頭の形相で。
「おいテメェ! なんだその態度はアァン!? 人に見せつけるみてぇに女どもに色目使いやがってコラァ! あと俺との挨拶簡略化し過ぎだ!」
「なにコイツ、ちょーうるさい」
「どーせハーストのモテモテっぷりに嫉妬しちゃったんでしょ?」
「嫉妬じゃねぇやい!」
「嫉妬に決まってるじゃない! ん? そういやコイツどこかで……、あー! こないだナンパしてきたイナカモンじゃない!」
「え、もしかしてギルドでナンパしてきた男ってコイツ? うわ~、マジ引くわ~」
「やれやれ……出会って早々に無様を晒しちまうとはな」
「うるせぇー! ちょっとモテるからって偉そうにしてんじゃあねぇぜオラァ!」
「別にしてないが? そっちが勝手にくってかかってきたんだろ?」
ごもっともである。
呆れ果てたアンネリーゼはヴァレリィを撫だめようと背中をさすりながら彼を止めた。
「も、もういいじゃない。せっかくのお祭りなんだし、ね? パーッとやりましょパーッと」
「うるせー! コイツはいっぺん俺がブッ飛ばしてやらねぇとダメなんだよぉ!」
酒の酔いとハーストへの嫉妬で喧嘩っ早さに拍車がかかっている。
そんなときだ、ハーストの目付きが一気に変わった。
「……おい、俺が今言ったこともう忘れたのか
「なにぃ!」
「いいか、お前が俺のことをどう思おうと知ったことじゃあねぇ。嫌おうがどう思おうが好きにしろ。だがな、そんな理由でアンネリーゼやそこの麗人を困らせるってんなら、俺だって黙っちゃいねぇ」
「ほっほ~面白れぇ。黙ってねぇんならどうするんだ?」
「乗ってやるよ。テメェの喧嘩にな!!」
「ちょ、ふたりとも!?」
アンネリーゼが止めようとするが、取り巻きたちはハーストを熱烈に応援し、クライメシアに至っては「喧嘩もまた祭りの華」と言ってそれを肴に酒を飲む気だ。
見物人が増え、円形の人だかりができる。
その開いた空間で、ハーストとヴァレリィが拳を構えた。
「この俺ちゃんと喧嘩をしようってのが運のつきだぜ。俺ぁ今の今まで喧嘩で負けたことがねぇ!」
「ほーう、それで?」
「そして、悪いがテメェは一発でブッ飛ばす!」
そう言って魔力を込めると自慢の
彼は本気でハーストを吹っ飛ばすつもりらしい。
これにはアンネリーゼも止めようとするも、余裕の表情でハーストに精されたためそこで見ているしかなかった。
「大丈夫だ。君の友達を悪く言ってしまうようで申し訳ないが、彼の攻撃は俺には通じないよ」
「ほっほ~う。言ってくれんじゃあねぇか。面白れぇ!!」
「手加減してやるから、さっさと来な」
「ちょ、ちょっとせっかくのお祭りなのに……クライメシア~!」
「まぁ見ていたまえ。そうだな……あのハーストという男の動きから学んでみるというのは?」
「え、こんなときに!?」
振り向いた直後、ヴァレリィとハーストの喧嘩のゴングが鳴った。
孤高の剣士クライメシアは見守りたい。~ということで私はクライメシアと一緒に成り上がりギルドライフを始めます。……ところで彼女の瞳がこんなにも優しいのはどうしてだろう?~ 支倉文度@【魔剣使いの元少年兵書籍化&コ @gbrel57
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