煙草の幽霊

むらさき毒きのこ

あなたしか見えない

 あなたは、幽霊というものを知っていますか。

 死んだ者の魂、とか。または「幽霊カンパニー」のように、実体の無い会社を表す際に使われたり。幽霊とは「実体が無い何か」と言えるのかもしれません。

 そんな幽霊ですが、たまにいるのです。「見える」と言う人が。どんな人かというと、いわゆる「霊感」があるという人です。


 さて、私はあなたに、ある疑問を投げかけたいと思うのです。ほんとうに、霊感がある人だけが、幽霊を見る事ができるのか、と。

 もしかしたら、別の世界があるのかもしれない、という事を、お知らせしたいのです。それはあなたのすぐそばに……


***


「嫌んなっちゃうね、さっきのオジサン」

「あー、たまに、いますよね」

「一番なんか、無えよ」

「ちゃんと見ろって感じですねー」

「ほんとそれ」


 地球上に約30000店舗を展開するコンビニ「デーモンマート」。そのデーモンマート・東京都西ノ端店の早朝勤務の二人は、センター便(おにぎりや弁当などの商品の配達車)が来るまでの平穏なひと時、カウンター内でお喋りをして過ごしていた。


 カウンター内の壁一面に、煙草の棚がある。タバコには一つ一つ番号が振られていて、全部で265ある。その、一番と二番は現在、煙草が無い。なぜならそこには、明日入って来るであろう新商品が並ぶ予定だから。


「……でもさ」

「なに、なになに?! なんですか?」

「何で、無いって分かってる番号、頼む人がいるんだろうね。よく考えたら、おかしくない?」

「おかしいっちゃ、おかしいですけどー。お客さん、朝早いから寝ぼけてるんじゃないんですか」

「そうかもしれないけどさ。そうじゃなくてさ。あるのかもよ」

「何がです」

「煙草。私たちには見えない、煙草の幽霊がね」

「いやいやいや……無いですって」

「だよね……あ、センター便来た。やるか~!」


***


 今日も暇なこのお店、デーモンマート・東京都西ノ端店。こんな東京の端っこにあるコンビニにも、たまにはお客さんが来るの。って言っても、一日に三人くらいなんだけどね。それに、店員がほとんど、私しかいないの。っていうか、会話が成り立たない人しかいない。


「嫌んなっちゃうね、さっきのオジサン」

「何が?」

「一番なんか、無えよ」

「……(そんなこと無い、一番の煙草、さっき私が売った)」

「ほんとそれ」

「……(何言ってんのこの人、ほんと毎回嫌になる)廃棄漏れ、見てくる~」


 新人の田中優さんは、可哀そうな人なのだ。まず会話ができない。旦那さんとお子さんがいるって言うけど、ここだけの話、本当かなあって思うくらい。……私とだけ。そう、私とは、会話したくないみたい。だって、事務所で休憩してる時は、誰かと話してる声が聞こえるもの。


 これっていじめだって思うけど、この店本当におかしくて、田中さんが帰った後、私しかいないの、店に。シフト表見たら、がっつり入ってるんだけどね。バイトや社員の名前が。だけど、田中さん以外、見た事無いの。おかしな店でしょ……だから私、ずっと店にいるの。


 本当は、辞めたい。こんなブラックなバイト。でも、誰に連絡したらいいか分かんないの。店に電話しても、留守だし。たまに電話に出てくれるのは田中さんだけ。だけどあの人、私の事を無視するからね。

 もう、こんなとこ来たくない……バックレようかな……ねえ、どう思う? って、誰もいないから、聞いても仕方ないよね……


「……でもさ」

「何?」

「何で、無いって分かってる番号、頼む人がいるんだろうね。よく考えたら、おかしくない?」

「だから、私が売ったよ」

「そうかもしれないけどさ。そうじゃなくてさ。あるのかもよ」

「怒るからね、変な事ばかり言ってると」

「煙草。私たちには見えない、煙草の幽霊がね」

「そんなのあるわけないでしょ、いいかげんにして!」

「だよね……あ、センター便来た。やるか~!」

「あ……」


 田中さん、初めて返事した。「だよね」って。

 もうちょっと、続けてみようかな。バイトここ

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