劣等感
六花
第1話
妹が入院した。
そう告げられたのは、前日のことだった。家族間で構成されているLINEグループにて、姉が突然送ってきた。
「入院したって聞いたけど?」
私にとってはまさに青天の霹靂。しかし、妹は私が実家にいた時からストレスにより、胃腸を弱らせていた。この時の私はまだ、また胃腸が弱っているのだろうとしか考えなかった。そして入院も、恐らく検査入院か何かだろうと考えていた。だから、
「明日の夜、ゆっくり事情を説明するから空けておいて欲しい」
という父のLINEにも
「明日は友達とクレープを食べに行く予定があるから、何時になるか分からない」
などと巫山戯た返信をしていた。
翌日。
予定通り友人と遊び、帰宅した。
その日は、推しが夜の9時からホラーゲームの実況が始まると聞いていたから、それに備えて夕食はカップ麺にコンビニのサラダと簡単に済ませた。時間になるまでさして興味の持てないクイズ番組をぼんやりと眺めていた。
時間が進み、あと30分で始まる、という頃。手元に置いていたスマホが震えた。確認すると、家族からのLINEグループの通話であった。
参加すると両親の声がした。
母から簡単な状況説明があった。
まとめると、
・妹は精神病院に入院している
・妹は自殺をする算段を立てており、決行日はまさに今日だった。
・妹は私や姉に劣等感を抱えていた
その他色々とあったが、私にはこの3点が衝撃的で、あまり記憶していない。
両親は明るい様子だった。恐らく、空元気だ。
妹は以前にも似たような事で騒ぎを起こしたことがあったので、同じことをしている可能性も捨てきれなかった。そこで両親は妹を入院させ、見舞いにも極力行かないことにしているらしい。妹が自分自身を見つめ直す時間を与える為に。
その後、事の詳細を聞き、両親の空元気に合わせ世間話や友人の話などして話を盛り上げた。姉は最初、あまり元気の無い様子だったが、どうにか話を盛り上げていると、いつの間にか笑っていた。
通話が終わり、私は推しの生配信の視聴を開始した。少しの時間でも現実逃避がしたかった。生配信は日付が変わってしばらく経った頃に終了した。
私は、妹が劣等感を抱いたという点にずしりと心に重みを感じた。
妹は、姉も私も大学に進学していることから、自分だけ勉強ができないと考えているのだろうと母は言った。
しかし。私は決して勉強が出来ていたわけじゃない。
高校に入ってからは授業中殆ど寝ていた。ただ、大事な部分だけ何故かしっかり起きていたので、欠点を取ることは1度もなかった。
大学に入学できたのは。
入試科目が小論文だったから。
偶然、私が中学時代に大量に本を読み、夢小説もとい黒歴史小説を書きまくっていたから読解力と文章力と語彙力がたまたま身についていただけ。
それから、面接で使える材料が1つ、あっただけ。
「高校3年間は部活を頑張りました」
私がいたチームは県内でトップ3に入る強豪で、3年間ひたすらサポートに徹していた。それだけだ。すごいのは私の仲間だ。私じゃない。私はそれを、チームをサポートという形で支えたと傲慢な虚勢をあたかも美談であるかのように話していた。
とても卑怯だと思う。自分は運が良かっただけの卑怯者だと思う。妹は、そんな私に劣等感を感じているらしい。その事実が、心を重くした。まるで、心に大きな鎖でがんじがらめにされている感覚だった。
今目の前に妹がいたら、私は恐らくこう告げる。
「私のような卑怯者に劣等感を感じる必要は無い。少なくとも、私よりもずっとずっと素敵な大人になれる。」
でも、私は劣等感に押し潰される生き方はしたくない。だから。
「自分の中で出来ると思うことを1番磨く。他者より劣っているかもしれないけど、そんなことは関係ない。自分が1番できることを1番磨く。そうすれば、いつかそれは自分の武器になる。」
だから私は今日も笑顔で生きる。
劣等感 六花 @rikka1105
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます