アンダー・トレジャーズ
山豹
序章『アンダー・ワールド』
──地上の世界を目指すこと。
それが全ての冒険者の総意であり。
それが全ての冒険者の悲願でもあった。
どうして地上を目指すのか、その理由を問われたら、彼らはこう答えるだろう。
──ここが地底世界だから、と。
地上世界から遥か地下に広がる今の人類の居住区。人が地底で暮らし始めてから、もう九百年以上の時が経つと、そう知ったのは最近だった。
「…………、」
手を伸ばしても、空には届かない。
そんなことは当たり前かもしれないが、ここでは地上世界の概念は通用することはない。
この空自体、どちらかというと天井の方がしっくり来る。
限界のない空なんてここにはない。頑張れば触れられて、限界が存在している。
「起きてますかー? ラージさーん」
寝っ転がっていた茶髪の少年、ラージは自分の名前を呼ぶ声を聞いて起き上がる。
「リリカ……?」
「はい、リリカです。エルザさんから連れて来るようお願いされたので、迎えに来ました」
明るく優しいピンク色の肩まである髪を揺らしながら、リリカと名前を呼ばれた少女が手を差し出す。
感謝の言葉を伝えながら、リリカの手を取る。
「ありがとう」
「それじゃ説明は歩きながら」
人類が地上で暮らせなくなってから長き時が経ち、もう地上で暮らしていた頃のことは記録でしか分からない。そもそも地上の世界が本当に存在しているのかさえ疑われる世界なのだ。
地上で人が生きられるのか、そんな環境があるのか、人は本当に地上で生活していたのかさえ分からない。そこで生活している人間なんてもう残っていない。
人の歴史は、もうそこまでの時が流れた。
地下深くの人類の居住区。
果てがあって、限界が存在する行き止まりの世界。
地底世界、アンダー・ワールド。
「そういえば、今日の予定なんだっけ?」
「えーと、確か迷宮内で鉱石集めがメインだったはずですよ」
迷宮。通称──地下迷宮。
地底世界に存在する唯一の外界へと行く手段にして、地上への鍵が眠る場所。何層と重なるそこには、魔物達が潜んでいる危険領域。
冒険者しか入る事を許されない魔境。
しかし──“地下迷宮の最上層が地上の世界だ”と、誰かが言った。
信憑性なんてない。
上っ面だけの夢物語かもしれない。
それでも、挑まずにはいらない。
この狭い行き止まりの世界からの脱却を求めて、その迷宮を攻略して、地上を目指す開拓者達のことを人々は──冒険者と呼ぶ。
現在、地下迷宮は第二層まで攻略し、第三層攻略の真っ只中で、そこで時は停滞していた。
冒険者が地上を目指して、何年になるのかは分からない。ただ、何人もの冒険者が夢半ばに倒れて、その夢が自分達へと繋がっていて。
それでも、
(俺達は、後どのくらい進んだら、地上に辿り着けるんだ?)
その問いに答えられる冒険者はいない。
終わりの見えない冒険に、果たしてどんな意味があるのだろうか。
これは少年が、冒険する理由を取り戻す物語。
アンダー・トレジャーズ 山豹 @Gomayama301031
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