人ト形
見慣れど歩き慣れぬ起伏を、私は元気に踏み込み帰路を行く。
共にいた級友とは先程の丁字路で分かれたところだ。
その代わりに優美な服装の女性が私と少し離れて並んで歩いている。
綺麗なお姉さんだなと思っていたら、押しボタン式信号待ちで遂に声を掛けられた。
手に持っていた精巧な洋人形を私にくれるということだ。
白いレースを
微笑む彼女と目が合い、この世の物と思えぬ美しさに息をのむ。
そしてそれは、得体の知れぬ恐怖となった。
いらない。
人形を譲る姿勢を崩さない。
足引きの 山、
その人形を受け取ってはならない。
握り震える手が警鐘を鳴らす。
この直感を疑ってはならない。
飛び啼く烏が静寂を裂く。
早く帰って宿題しなきゃ。
絞り出した言い訳を合図に信号が青く光る。
形振り構わず向かいの停留所のバスに逃げ込む。
着く席を選ぶ安堵も束の間か。
最後に私を載せたバスの後部座席には、彼女がちょこんと座っていた。
私は、咄嗟に唾を飲み込んだ。
天井だ。
あぁ。
堪えた恐怖が雫となって、私は咽び
午前4時。
唐突な電話にでた寝起きの彼は、涙を優しく拭ってくれた。
ゆめにっき 谷 重頼 @Tani-Shige
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