超多作短編作家

@HasumiChouji

超多作短編作家

「例の小説の作者について……鹿児島県警から回答が来ました」

「鹿児島? どう云う事だ?」

「あの小説の投稿に使われたIPアドレスを元に、投稿者の住所を突き止めたのですが……投稿者は鹿児島市在住の会社員です」

「おい、鹿児島に住んでるヤツが、わざわざ、この仙台まで来て連続殺人をやってるのか?」

「それがですね……」


 半月前から仙台市内で、同一犯によるものと思われる殺人事件が2〜3日に1度の割合で起きていた。

 そして、今の所、最後の殺人が起きた直後に見付かったのが、小説投稿サイトに投稿されたその小説だった。

 今起きている連続殺人事件を元にしたとしか思えない悪趣味な短編小説……だが、その小説の中には……。


『彼は、その女の首に手をかけて、力を込めた。しかし、女の指が彼の頬を引っ掻き……獲物に反撃された上、血まで流してしまった事で、彼の脳を怒りが支配した』


 いわゆる「秘密の暴露」……容疑者が真犯人だと証明する為に、警察と真犯人しか知らない事実が最低1つは存在している必要が有る。

 今の所、最後の被害者の手の指の爪に、他人の皮膚組織と血液が付着していた事は……マスコミにも発表していない。

 では、この小説を投稿した者は……。


「でも、もっと簡単に説明可能な仮説が有りますよ」

 サイバー犯罪対策課の若い刑事は、ノートPCを操作する。

 そして……会議室のスクリーンに小説投稿サイト内のあるページが表示された

「お……おい……何だこりゃ?」

「とんだ本数だな……」

「この作者は……事件が始まってから、日に何本も、あの事件をモチーフにした小説を投稿してます。毎日、最低3つ、日によっては10以上です」

「な……何なんだよ、こいつは?」

「普通のヤツじゃないとは思いますが……こんだけ同じ事件を元にした小説を投稿し続ければ……その内、1つぐらいは、警察と真犯人しか知らない事実と、たまたま、良く似ている事が書かれていても不思議じゃないですよ。一見、真犯人と警察しか知らない事実に思える事が書かれてたのは……たまたまですよ」

「そ……そんな馬鹿な……」

「ですけど、他に何か証拠が出ない限り、捜査対象からは外した方がいいと思いますよ」

 会議室には徒労感が漂い……。

 しかし、捜査本部の刑事達は知らなかった。

 被害者の爪に付着していた皮膚組織のDNAは……。


「何だ、こりゃ?」

 仙台で起きている連続殺人事件をパロった不謹慎小説を小説投稿サイトに次々と投稿している「鹿児島市在住の会社員」の「最新作」は、あまり出来が良いモノでは無かった。

 オチは無い。

 念の為、その作者の小説をチェックし続けている、その刑事からすると意味が判らないモノだった。

 何故か、被害者の爪に付着していた皮膚組織のDNAは、捜査本部に属する刑事の内の1人のモノ。だが、そんな事が起きた理由は何も書いていない。

「わけわかんね……」

 刑事は欠伸をしながらトイレに立ち……小便をし……手を洗い……顔を上げ……。

 鏡に写った刑事の顔の頬には……刑事自身にも覚えの無い傷が有った。丁度、人の爪で引っ掻いたような……。

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