第11話 さらにその後の二人

 わたしもユーグも、大学を卒業した。


 わたしは、魔法陣を使って生活用品を作る会社に就職が決まったわ。みんなに使ってもらいたいというわたしの理想通りよ。


 ユーグは、魔法研究所に入ったの。大学に通っている間に、新しいことをする悦びに目覚めたみたい。

 わたしの影響? うん、たぶんあるよね。

 デートの時間の半分は、お互いの守秘義務に反しない程度でいろんなものを討論してきたもの。わたしにはユーグの発想力がありがたいし、ユーグには、わたしの雑多な知識が役立つの。




 そして、ユーグとわたしは結婚した。

 仕事の同僚だけでなく、大学や学園の同級生までお祝いに駆けつけてくれたのは嬉しい誤算。

 スーツに身を包んだユーグが、とても眩しかった。彼がわたしを見つめる瞳の熱が、心地よいような恥ずかしいような、不思議な気分だった。




 その夜、わたしはユーグから信じられないことを聞いたの。


「リュシーがずっと好きだったんだ。入学した頃から」



「リュシー、入学式に新入生代表で壇に上がったよね。

 あのとき、なんてかっこいい女子なんだろうって思った」


 わたしは空いた口が塞がらなかった。まさかそんな前から意識されていたなんて。

 わたしが一方的に見ていたんだと思っていた。


「一年のときから、クラスのまとめ役でいつも大活躍だし、成績はトップクラスだし。それなのにクラスのみんなに優しいし。

 俺なんか、不良って言われていたのに。


 そんな俺でも、リュシーとつきあいたいって思ったんだ。せめて教室で話ができる友達になりたいって。

 だから、自分のできることを伸ばした。攻撃魔法、めっちゃ頑張ったんだぜ。


 それでも、声をかけよう、声をかけようと考えている間に三年になって。

 これじゃダメだって思い切ったのが、あの日。図書室への廊下。

 おまえが毎日図書室に行っているのは知っていたから、レポートを言い訳にした。もちろん、手伝って欲しいのは本音だった。


 待ち伏せたはいいけれどやっぱり話しかける勇気がでなくて……帰ろうかと考えていたらおまえが来たんだ。

 恥ずかしくて顔をあげられなかったけれど、あのとき頑張ったんだぜ、俺。あのあと何度自分で自分を褒めたか」


「え? だってレポートが完成してつきあってくれって言うまで、そんなそぶりは全然なかったじゃない。

 ただ魔法陣の得意な同級生に声をかけたんだと思ってた」


「痩せ我慢してた。だって、勉強をおしえてもらうのにデレデレしていたらカッコ悪いだろう。


 あのとき手伝いを頼んでなかったら、俺たち、こうやって一緒にいれなかったよな。

 リュシーのおかげで、母さんも元気になったし」


 ユーグの顔が近づいて、彼の唇がわたしの耳元をかすった。

「ありがとう。俺の奥さん」


 ああ、ささやくようなユーグの甘い声は、今でも胸に響く。最近は、カクリと体から力が抜けそうにもなる。


 艶っぽい声にとろけてしまったわたしは、こう返すのが精一杯だった。

「わたしも幸せよ、ユーグ」



 わたしたちはこれからもずっと、幸せに暮らしていくの。



 ~ 終わり ~


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同級生のあいつは不良? それでも魔法陣作成手伝います。だって顔も声も好みなんだもん 銀青猫 @ametista

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