空想、宗教家ゲン・ゼレ

 ある輝かしい星、ある燦然たる都市、ある華美な街。人々は宇宙に飛び出し無数の煌びやかな夢を持ちエンジンに火を吹かさせている。


 ゲン・ゼレは星の地面の上で生まれた旺盛な少年だった。近所の友達とは毎日陽が暮れるまで遊び倒し、初等教育から高等教育まで成績は決まって上位に入り、非の打ち所がない人間──言い換えるなら平坦な人間──だった。彼は起伏の少ない人生を歩み赤の他人の山を下から眺めて悔しくなり自らを侮蔑する様な、第三者から見れば嫉妬に駆られる悩みを持ち、輝かしい夢を持たない、いや持てない大人に育った。人並み以上には必ず成功し人並み以上には成果をあげるゲンは仕事の同僚や上司から妬まれ、羨まれはするが尊敬する人はいなかった。ゲンの悩みは誰にも打ち明けられず募りに積もりいつしか高い山となるまでに成長する。


 宗教はゲン・ゼレに居場所を与えた。これより前、ゲンの居場所は自宅でも仕事場でも何かをしている時でも無かった。家族に頼ることは考えの一つにも入らず、相談できる友達と親友もいなかった。だが、彼はベンチの上で煩雑に置かれていた泥まみれの薄い教典を拾い上げ表紙を捲り読んだ。表紙の次に書かれていることはゲンを心酔させることになる。表面上には彼の荒んでいた心を拾い上げ、その心情を隣人に伝え教えを広めることが書かれていた。勿論、ゲンは実践することになる。


 表紙の裏には現金なことが書いてあったが汚れた教典では見えなかった。


「救いは必ずあります」


 ゲン・ゼレは宗教家としての生涯をこの言葉で初めて、生涯をこの一言で終わらした。


 彼の活動場所はもっぱら貧民街と蔑まれる特別な星だった。彼の地にゲンが空宇宙から降り立った時に彼は今までにない光景に戦慄した。狭く汚い道をゆく人の顔はどれも人間味があり、一度話し掛ければ個性豊かな返答が返ってくる。ゲンは不思議と心地よさを抱いていた。いや、見下していた。


 彼は笑顔で「救いはある」と云い続けて自らが作り上げた宗教を広めていった。ゲン自身はそう感じていなくとも既に周囲の人間は彼は何かの宗教を広めている程度には認識していた。教典は既に灰塵に帰していたものの薄い内容だったためにゲンは大方暗記していた。ゲンはその内容は一切広めずに貧民街の星を巡っていった。

 いつの間にか中身の無い宗教は人との交わりの中で少しずつ、少しずつ中身のある存在となっていく、神の存在しない世界に初めて救世主が現れた。貧民街に落ちている、浮いている思いを取り込んで貧民街に広がり──人をも取り込んで行く。ゲン・ゼレを崇拝し始めた人々は神を信じず救いを信じる人間とかしただゲンを崇拝する存在となった。

誰もかもが彼を崇め奉ることにはなりはしないがそれでも蔑視の目線に晒さされた人は我を忘れて救いを信じた。だが、何ごとにも行動しなければならない。


 彼等はこう叫んだ。


「「「国に救い在らず!」」」


 ある星、通称“貧民街”。

 叛乱の火が燻り始める結果となった。





後書き

これが一番初めに書いたもので全てここから創造しました。

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地面への近道 黒心 @seishei

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