雨、いい文章が書きたくて

ナタリー爆川244歳

雨、いい文章が書きたくて


 拙僧、文芸サークルに参加しておるのだよね。勢いあまって、拙僧、なんつちゃったけどね、ハハハ、所詮は俺です。出家してねえし。

 サークルでは、みんなの書いた作品を読む、あるいは自分の作品を読んでもらうなどするのだけれども、やはり皆さん、文章がお上手なのである。小説だったり、短歌だったり、形態は様々なのだけれど、一度読んだが最後。文字が歌って、踊って、情景がバァーッと広がり、気付けば文学世界の中を漂っているのである。

 皆さんに負けてらんネエ、と、俺も朝っぱらから机に向かって文章を書くことにする。傑作書いてこます、と、袖をまくって気合十分。つってもTシャツだから袖ほとんど無いけど。

 活動は月に一、二回のペースで行われている。毎回の会合ごとに、様々なテーマが用意されるのだが、此度のテーマは「雨」だった。テーマとは関係の無い作品を発表しても良いのだけれど、せっかくなのでテーマに関連したものを書くことにする。


「雨が降っていた」


 と、たった一文だけ書いてから先が思い浮かばなかった。さっきまでの気合はどこへやら、俺はしぼんだ風船みたいになった。

 そりゃそうだよ、天才でもあるまいし。いきなり机に向かって書きはじめるや否や、神懸かり的な力を得て、一気呵成に最後まで書き抜いた……みたいなことにはならんのだ、トホホ。

 文章が書けないときはどうするのかって? 俺のような凡人はプロットなるものを作るわけだ。プロットというのは作品の全体像や構成などを書き起こしたメモのようなものだと思っていただければよい。早速、PCのテキストエディタに「プロット」という名前のデータを新規作成する。「テーマは雨」と入力して、俺は腕を組んで唸った。

 たしかにプロットを書けば、文章を書くのに役に立つ。全体の流れや作品のメインテーマを把握しやすい、などなどの利点があるからだ。だが、肝心のプロット自体に何を書けば良いかわからないのでは手も足も出ない。ただただ真っ白けな画面を見つめてしかめっ面したり、諦めてチャーハンを作ったりするしかないのである。せめて、何か一言だけでも、と必死に言葉を紡ぎ出す。


「雨が降っていた。僕はすごいなあと思いました」


 やってらんねえ。「すごいなあと思いました」ってなんだよ。小学生の書いた感想文じゃねえんだよ。こんなもん、何も思ってないのと同じやないか。

 俺は執筆活動を投げ捨てて、布団に横に『NARUTO-ナルト-』のアニメを見始めた。ダジャレか。

 作品について軽く紹介しておこう。『NARUTO-ナルト-』は週刊少年ジャンプで連載されていた漫画だ。落ちこぼれの少年忍者「うずまきナルト」の成長を、友情・師弟愛、大迫力の忍術バトルを通じて描いた作品で、世界的にも大ヒットした一作である。

 画面の向こう側ではナルトが様々な逆境、困難にも挫けず、傷だらけになってもあきらめずに闘っていて、その様を観ているだけで心が熱くなる。

 一方、俺ときたらどうだ。執筆を早々に放棄、布団に寝っ転がって非常に楽。なんたる体た。またダジャレか。情けなくなって涙が出てきた。

 気が付いたら、目ン玉飛び出すんと違うか、というくらい食い入って『NARUTO-ナルト-』を視聴していたらしい。外はもう夕方、カラスがカァー、というて鳴いておるではないか。カラスが鳴いたらかーえろ、って俺は家から一歩も出ていない。眼精疲労も溜まってきた感じがするし、アニメ見るのを中断して、いっちょ文章書きますかー、と、再び机に向かう。

 

 「街に雨が降っていた。その雨の中で、女は傘もささず立ち尽くしていた」

 

 必死のパッチで絞り出した一文であった。『NARUTO-ナルト-』を見たおかげで良い刺激が得られたのかもしれぬ。いいんじゃないの。なんというか、ドラマを感じさせるよね。なぜ、その女は傘もささずに雨の中立ち尽くしているのか。理由を追求するだけでひとつの物語ができそうじゃん。さあ、続きを書こう。ガンガン行くってばよ!

 

 「よく見ると、それは女ではなく電柱だった。ただの見間違いだった。了。」

 

 なんでだよ、どうしてこうなるんだよ。俺はいつもチャンスをフイにする。だいたい、電柱と女性を見間違えるなんてどうかしている。ロマンチックな雰囲気はどこに行ったんだ。しかも「了」ってシメてんじゃねえよ。シマってねえから。あと、早いうちメガネを買いに行け。こんなもんダメだ。リテイクだ、リテイク。この棒鱈ァ。

 

 「会社の帰り道、私は電柱と女性を見間違えてしまった。視力が落ちたのだろうか、と心配になって、眼科に向かった。」

 

 お、いいじゃん。もらったアドバイスに即座に反応する行動力、「素晴らしい」の一言に尽きるぜ。お前ってやつぁホントに。

 

 「ところが、眼科は休みだった。なんとなく俺は空を見上げる。雨はもう止んでいて、青い空がどこまでも高く広がっていた。俺の心は誰にも縛れやしない、ワケもなくそう思った。了。」

 

 空に思いを馳せるな。しかもまたシメやがって。そもそも何も始まってねえし、終わってもねえよ、この〈ミスターお花畑〉め。見上げた空も、どうせ見間違いだよ。お前の心は地獄に縛られているんだ!

 

 もしかしたら今日は調子が悪いのかもしれない、と思った俺は執筆を中断して寝ることにした。

 たしかに今日はダメだったかもしれない。でも、この先もあきらめずにずっと文章を書き続けていれば、いつか面白い作品が書けるようになるかもしれないじゃないか。「俺が諦めねえのを、諦めろ!」ってのは俺が『NARUTO-ナルト-』の中で一番好きなセリフだ。その通りじゃないか! よしんば、駄作の山の中で死んでいったとしても、それにはきっと大きな価値があるんだよ!

 今日も今日とて、俺は書く。これが俺の文道だ、とか、ほざきながら。日々を耐え忍んで。(了)

 

 

 

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雨、いい文章が書きたくて ナタリー爆川244歳 @amano_mitsuru

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