皿の凸面
太平の世に国、富て貴人も民草も者みな全て貧困と縁遠くなり。
もはや王も貴人も武人も商人も凪いだる大わだつみの如く平らかならん。
申命の年、崑崙の麓に鍬持って痩土を掘りし貴人あり。邪阻を患いし王が病の床で申すに家督を放蕩息子でなく王統の傍系たる彼の貴人に譲ると言い遺したり。
かくて喧々諤々紆余曲折の末、都の使い早馬を鞭打って王位継承を命じる。
王の器にあらざらん者が戴冠すれば直ちに天変地災悪事疫病蔓延りて国滅ぶ。
学者識者が口を揃えて先行きを危ぶむも亡き王が夜な夜な王座に立ちて説き伏せり。
悩める貴人に汝、王であって王にあらず。
そういうことを言う。彼はどういうことだと老爺に尋ねり。
老爺は深々と吐息し,問うた。今や民こそが王である。汝が仕えし王に対して嘘は吐けるまい。王であると言いえども王としての立場もある。これは玉座を逸失せし王にも同じ。
なるほどと貴人は首を縦に振る。さらに翁は問う。
では何故に汝王生まれしか。汝が王としての威厳に不足はないか。
夢から覚め新王は喝破した。老獪が思い違いも甚だしい。
酒をあおり手の甲で瓶を倒して己の痴を知る。
彼は崑崙の雲峡に仙人を訪ねた。我に王統の響きありかと問う。
而して汝は既に王なり。何用かと追い払われる。
我が汝に王に生まれついたということを告げたら汝は民に認められるるのか。
いや、しかし、王の姿は天賦であると先王が述べりというに
仙人は一喝せり。しからば今一度問う。我は我が道を我が身で助くにて神通に至れり。王にあって然らずんば己自ら王は王たりと認めるることなり。
新王、頭を垂れ救世せんと衆生のための王として振る舞いけり。
王の王たるゆえん 水原麻以 @maimizuhara
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