このおとこの人は誰なの?

沼田くん

第1話

 私の名前は小泉汐莉。

 よれた襦袢を着せられて柱に繋がれた。手が背中に回って手首を縄が咬んでいて痛い。胸にも縄が回って締め付けている。苦しい。息が出来ない。

 どうして、こんなことになっているの?

 突然、違うおとこの人が家に上がってきて私を連れて行った。

 父は、何もしてくれなかった。

 母は、泣き叫んでいた。

 私は、車に乗せられてここに運ばれた。

 知らないおとこの人に言われた。

「今日からここで暮らすんだよ。よろしくね」

 何をこの人は言っているの?

 どうして、ここで暮らさないといけないの?

 帰りたかった。それを言ったら柱に繋がれた。

 長く縛られている間に縄を解こうとしてもがいた、何度も、何度も。縄は意地悪だった。もがく私の体を余計に締め付けた。

 解けない。悲しくなった。涙が瞳を濡らした。溢れてこぼれ落ちた涙が、古い畳に染み入った。

「まだ諦められないのか?」

 随分と前に出ていった知らないおとこの人が部屋に戻って来て口にした。

「諦めるまで縄は解かないぞ」

 恐い顔をして言われた。

 腕が痛いのに。胸が苦しいのに。我慢がならない。

「お願いです、縄を解いてください」

 泣いて腫らした目をおとこの人に向けた。

「だめだよ。解いてほしいなら私の言うことを聞くんだ。ずっと、ここに居ると言いなさい」

 ずっと、って、いつまで?なぜ?

 おとこの人に言われた。

「汐莉が知る必要はないんだよ」

 たったそれだけを言われた。

 教えて!教えて!教えて!

 家に帰して!

「ここが汐莉の家になるんだ、私が新しいお父さんだ」

 そうまで言われて、頭が混乱した。

 お父さんは、私の家に居る。お母さんも。どうして、新しいお父さんだなんて言うの?

 うそつき❗

 



 

 

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