6.歩幅が大事
「合コンなんて、その気になったはいいけど、呼べる友だちなんていないのに。だから、そんなに仲はよくないけどそういうのが好きそうなやつに頼んだはいいけど、幹事のぼくがいちばんどうしたらいいのかわからなくて。席だってツグミちゃんの近くにしてもらったのに、話もできなくて。ツグミちゃん、早く帰りたそうにしてたろ?」
「はい……」
正直に、わたしは頷いた。ごまかしたりするようなことじゃないと思った。
「だよね、ほんとごめん。やり方をまちがえた。ぼくが馬鹿だった」
「そんな……」
「って。もう、絶望的な気分でいたらツグミちゃんに会えた」
くすっと微笑んだ気配に目を上げてみる。このひと、ひょろっとしてるけど背は高くなくて思ったより目線が近い。目と目が合うと、恥ずかしそうに視線を反らせてから、またわたしを見た。
「合コンとか、そういうのに頼らないで、最初からこうやって話しかけてれば良かったんだよね。すっごい今さらだけど。ツグミちゃんに嫌な思いさせてさ、こんな話されても、気持ち悪いよね」
自分で言いながらどんどんしょんぼりしていくようすが見て取れて、わたしは思わず口を開いた。
「嫌じゃないです」
「……え?」
「えと、あの、びっくりはしたけれど、嫌じゃないです」
あれ、自分そうなの? と話しながらわたしも自分で驚いたりして。だって、このひと怖くない。普通に話せてる。
「あの、だから、元気出してください」
なんかおかしなこと言ってないかな。でも上手な言葉が浮かばない。素直に思ったことを口にするだけで、そんなことしかわたしはできない。
「わたしも。さっき、お店で、ずうっとどうしていいかわからなかったんです……同じですね」
「……うん。同じだね」
「はい」
「同じといえば、ツグミちゃんもこの路線なんだね」
「はい。いつもこの本屋さんに寄り道してて」
「会ったことなかったね、今まで。ぼくもいつもこのくらいの時間に寄るんだけど」
「あ、わたしはいつもはもっと早い時間です。定時なことが多いので」
「うっそ、仕事早いなあ」
屈託なく笑うと、そのひとは急に子どもっぽい雰囲気になった。勝手に年上だと思っていたけど、実は年が近いのかもしれない。
「これからは、ぼくも定時で帰れるように頑張ろう」
ぐっと決意したようすでつぶやいて、そのひとは改まってわたしを見た。
「また今度、話してもいいかな?」
こっくりわたしは頷いた。だって、ぜんぜん嫌じゃなかったから。
顔全体で微笑んだそのひとと、それじゃあまた、と別れた。向こうはしきりにわたしの名前を呼んでいたけれど、わたしはあのひとの名前をコンパで多分聞いてはいたけれど忘れてしまった。マヌケだ。でも。それでもいいじゃんって思えた。
恋愛って、いろいろだし人それぞれ。わたしは、男の人が怖いし苦手だし、あんまり一緒にいたいとは思えない。こんなわたしが恋愛できるとは思えない。でも、恋したくないわけじゃない。
こんなわたしでも、少しずつでも進めるなら。出会いを大事にしたいなって、そう思った。
case one END
ロマンスはひつよう 奈月沙耶 @chibi915
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