5.真相
「今日はなんだかヘンな会になっちゃってゴメンネ。楽しくなかったよね」
嘘になるから楽しかったとも言えなくて、
「ごはんは美味しかったです」
正直に言えることだけ言うと、先輩はふふっと笑った。
「ツグミちゃん、カワイイ」
ふわっと頭をなでなでしてもらったのにドキドキしてしまった。わたしが、スキンシップに免疫がないってことなのだけど。
「あのお店、また今度は女子だけで食べに行こうね」
「あ、はい。ぜひ」
女子だけってところに反応し、素直に期待してしまう。先輩は、ふっと口元を引き締めた。なんだか、ため息が出そうになったのをこらえたみたいな。
「さて、帰ろうか。駅まで一緒に行こう」
先輩とは路線が違うので改札を通ってすぐに別れた。
帰宅ラッシュはいったん落ち着いたのか、構内の通路は閑散としていた。次の電車の時間まで余裕があったから、急がずにショップが並ぶエリアを歩いた。
閉店しているお店が多かったけど、ブックストアにカフェコーナーを併設している店舗はまだ営業していて、本を見に寄っていこうかどうしようかと少し考える。
すると、そんなわたしの視界にライトブルーとグレーのストライプ模様のネクタイが飛び込んできた。どきっとして動きを止めていると、ブックストアから出てきたそのひとは、目を丸くして思わずのようにつぶやいた。
「ツグミちゃん」
てことは、このひとがさっき合コンでわたしの向かいに座ってたあのひとでいいのだよな。初対面でろくに顔も覚えずにいたマヌケなわたしはぼんやり思う。
「あ、えと、お疲れ。今帰るとこ?」
「え、はい」
会話が往復すると、沈黙が流れる。どうしたらいいのかわからない。
「ちょ、ちょっといいかな。少しだけ、話しても」
「はい」
機械的に頷くと、そのひとは少しだけわたしとの距離を詰めて向かいに立った。
「あの。今日はごめん。沢野さんに無理やり連れてこられたんだよね」
「無理やりってわけでは」
「でも、ほんとは気が進まなかったんだろ。なのにごめんね、ぼくのせいで」
「え?」
「今日の合コン、ぼくのためにセッティングされたようなものだから」
恥ずかしそうに消え入るようにそのひとは話す。
「前からツグミちゃんのこと、気になってたんだ。仕事でちょくちょく見かけて、いいコだなって。それ、沢野さんにはバレバレで、じゃあ一度合コンしようよって。ツグミちゃんに紹介するからって」
それで先輩は、いつもより強引にわたしを誘ったんだ。
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